イギリスの EU 離脱問題:ジョンソン首相のまとめた協定案は議会で採決されず、期日延長を求める状況となる

 NHK によりますと、10月末に期限を迎えるイギリスの EU 離脱問題で『ジョンソン首相の離脱協定案』の採決が国内法の整備を優先に先送りされたとのことです。

 当初は現地19日(土)に議会での採決が図られる予定でしたが、実施が見送られることになりました。「離脱期限の延期を求めること」がイギリスの首相には義務づけられていますが、EU 側が応じる確証はないため、ハードブレジットの可能性は残されていると言えるでしょう。

 

 イギリス議会では19日、政府がEUと合意した離脱の条件について採決する予定でしたが、超党派の議員が離脱に必要な国内法の整備を優先させる修正動議を出して可決され、採決は先送りされました。

 ジョンソン首相は、19日までに離脱条件について議会の承認が得られなければ、EUに離脱期限の延期を求めることが義務づけられていました。

 このため、ジョンソン首相は、19日夜、法律にしたがってEUのトゥスク大統領に延期を求める書簡を送りました。EUは今後、加盟各国と対応を協議するとしています。

 ただ、ジョンソン首相はこの書簡に署名をしておらず、あわせて送った署名入りの別の書簡には、「離脱の延期は双方の利益を損なう」として延期を否定しています。

 

異例の土曜日開催でも「議決」までには至らず

 EU 離脱問題を抱えるイギリスでは「19日までに議会の承認が得られなければ、首相は離脱期限の延期を EU に求める」との議決が成立していました。

 そのため、期限である19日に議会が開かれ、EU 側と合意に達していた『ジョンソン首相の離脱協定案』に対する採決が行われる予定となっていたのです。しかし、採決を行われることはありませんでした。

 「離脱に必要となる国内法の整備を優先させる修正動議の採決」が行われたことが理由であり、この制約を設けることは重要ですから必要な動きと言えるでしょう。

 ただ、「この段階で動議が提出されたこと」への疑問は抱かれると思われます。EU から離脱する際に “現行の国内法” を必要に合わせて整備し直すことが必要になるのは「メイ首相の在任時から判明していたこと」であるはずだからです。

 イギリスの首相を務めているのが誰であれ、『離脱協定案』を実行させると現行法の修正は不可避と考えられるからです。したがって、「離脱に対する備えが甘かった」との批判は免れないと言わざるを得ないでしょう。

 

ジョンソン首相は「EU 離脱期限の再延長」に積極的とは思えない

 議会は「離脱期限の再延長を EU に要請すること」をイギリス首相に義務づけていますが、肝心のジョンソン首相が乗り気ではありません。

 ジョンソン首相は「離脱」を最優先事項に置いていると考えられるため、ハードブレジットを「目標を達成する手段の1つ」と見なしているはずです。だから、消極的な対応が目に付くのでしょう。

 離脱期限を先延ばしにして喜ぶのは「イギリスの EU 残留を望む界隈」でしょう。離脱が決まらずにグダグダになって「実質的な残留」となれば、残留派の目的は達成されるからです。

 しかし、それ以外は「期限の先延ばしに迷惑する側」です。

 イギリス以外の EU 加盟国はその代表格ですし、「離脱交渉」に “人的資源” などを費やすことを強いられているイギリス政府もそうだと言えるでしょう。だから、「時間切れによるハードブレジット」で離脱交渉に終止符を打つという選択肢が見え隠れしているのです。

 

イギリス議会が『ジョンソン首相の離脱協定案』をどう評価するかが大きな分かれ目

 イギリスの EU 離脱交渉は21日(月)以降に山場を迎えることになるでしょう。「離脱に関連する国内法の整備」と「離脱協定案の可決」の2つを乗り越える必要があるからです。

 ただ、議会を確実に通過する保証はないため、否決されるリスクは十分にあります。

 離脱期限の再延期は認められても、再々延期は認められることは難しくなりますし、再々々延期ともなければ「残留と同じ」との批判を受けるでしょう。EU 残留派はこれが狙いです。

 「ハードブレジットはない」なら戦術的な狙いは的確ですが、交渉相手である EU 側に嫌気が見えますし、イギリスの将来的な立場はかなり悪くなるでしょう。その状況を受け入れても『瀬戸際戦術』を続行するのかが注目点となります。

 離脱に向けて決定打となるような動きが今週に開かれるイギリス議会で行われるかが注目点と言えるのではないでしょうか。