プロのスノーボーダーにアマチュアの “清貧さ” を要求するJOCの姿勢に問題がある

 全日本スキー連盟が強化指定選手に指名する未成年のスノーボード選手が海外遠征中に大麻を使用していた疑いがあることが報じられ、世間から批判の声が出ています。

 しかし、この件は「倫理的に問題がある」とバッシングすることが限界です。なぜなら、そもそもJOCを含むIOCの対応そのものに問題があるからです。

 

 NHK が報じた内容は次のとおりです。

  • 容疑者:スノーボードの強化指定選手(未成年)2名
  • 容疑内容:アメリカ・コロラド州での大麻使用

 明確にしておく必要のある点は選手2名は日本の法律には違反をしていないということです。

 

 まず、大麻(=マリファナ)を取り締まる法律には、大麻取締法が存在します。この法律は「所持・栽培・譲り受け・譲り渡し」を禁じていますが、「使用」に対する罰則規定がない内容となっています。

 また、日本の法律は(日本国内にいる人物が内外国人に関係なく、日本の法律による適用を受ける)属地主義が採用されています。その上、刑法第3条に定められた “国民の国外犯” という項目にも、国外での大麻使用において国内法律を適用するとの記載は存在しません。

 

 したがって、日本国内の法律解釈では問題ないだけに、実際に大麻の使用があった現地(アメリカ・コロラド州)で適用されている法律に違反していたのかを争点としなければならないことなのです。

 コロラド州政府がポータルサイト上で公表しているガイダンスには以下のような記載が存在します。

 Q、21歳未満の人に合法的にマリファナを譲渡または販売できますか?

 A、いいえ、マリファナを所持・使用するには21歳以上でなければなりません。未成年へのマリファナの譲渡もしくは販売は違法です。

 ちなみに21歳未満の人物がコロラド州でマリファナ使用によって逮捕された場合、罰金から刑務所での収監までの範囲で刑が科されることになると記載されています。民事罰となるケースが想定されますので、 “社会福祉活動” を一定時間行うことで相殺されることになるものと思われます。

 

 ただ、日本のメディアがヒステリックに今回の事件を報じることには違和感があります。その大きな理由は「アスリートに “清貧さ” を要求しすぎていること」に他なりません。

 スノーボード競技がオリンピック種目に加わったのはプロスポーツとして若者世代に人気の高い競技として確立されていたからです。コロラド州で開催される『Winter-X』など、オリンピックよりも賞金・名誉を手にすることができる X-Games が人気の火付け役だったのです。

 大会に参加するのはプロスノーボーダーが中心であり、選手たち自身がプロとして自らの発言・行動に対する責任を負っています。なぜなら、問題となる発言や行動でスポンサー撤退による憂き目を見るのは他ならぬ自分自身なのです。選手はプロとして活動しているのですから、JOCからの資金提供についてもスポンサーの1つという認識で普通でしょう。

 もし、「青少年世代の手本となるような立ち振る舞いをするように」とJOCが要望するのであれば、(相応の待遇を提示した上で)契約内容に組み込んでおかなければなりません。それがアスリートに対する最低限のリスペクトというものです。

 

 少なくとも、多額の賞金やスポンサー収入のあるプロ選手にJOCがわずかな資金援助しただけで「JOCの価値観に従わず、選手管理が難しいのは問題だ」と主張するのは論外です。

 “金は出さないが、口出しはする” ようなスポンサーを希望する選手はいないでしょう。JOCや日本のマスコミがやっているのは、選手から忌み嫌われることなのです。このことを自覚しない限り、オリンピックの抱える矛盾点が露呈し、大会価値が下がることになります。

 その結果として、プロ選手はオリンピックにそれほど興味を示さなくなると言えるでしょう。選手よりも、役員に配慮された国際大会の行く末を案じることほど無駄なことはないと言えるのではないでしょうか。