設計内容と異なる工事をされた挙句、建築士が罪に問われるのは間違いだ
自らが設計した内容と異なる工事が行われていたにも関わらず、裁判で罪に問われたら。
東日本大震災でコストコの駐車場スロープが崩れた事故で1級建築士の身にそのようなことが起きました。地裁では有罪判決が下ったですが、高裁では逆転無罪になったと朝日新聞が報じています。
東日本大震災で大型量販店「コストコ多摩境店」(東京都町田市)の駐車場スロープが崩れ8人が死傷した事故で、業務上過失致死傷罪に問われた1級建築士、高木直喜被告(69)の控訴審判決が13日、東京高裁であった。禁錮8カ月執行猶予2年とした一審・東京地裁立川支部判決を破棄し、無罪を言い渡した。
この事故では時系列を確認することが必要であると言えるでしょう。問題が発生した場合はどのような決定が下されていたかを確認することは非常に重要だからです。
- “高木建築士の前任者” が設計図を作成
- 鋼板で建物とスロープをつなぐ一般的ではない方法を構想
- 高木建築士が引き継ぎ
- 接合部を床でつなぐ強度が高い構造設計に変更
- 建物本体とスロープが異なる揺れ方をする構造
- 鋼板でつなぐ(=“前任者”の設計)形で工事が実施
- 東日本大震災で崩落事故が発生
高木建築士が罪に問われるとしても、プライオリティーはかなり低くなければなりません。なぜなら、“高木建築士の前任者” による設計図どおりに施工された結果、事故が発生していることが明らかだからです。
問題となった設計は高木建築士によるものではなかったのです。より強度の高い構造設計に変更した建築士だけが起訴され、問題のある設計をした人物が設計図とは異なる工事を施工した業者は罪に問われていないのです。
明らかに「検察は起訴すべき対象を間違えた」と言えるでしょう。
構造図に欠陥がないのであれば、設計した建築士が罪に問われるべきではありません。むしろ、設計内容とは異なる工事を行った業者の責任が問われるべきでしょう。
手抜き工事の責任を建築士が取れという主張はあまりに暴論すぎます。この件で高木建築士が有罪で確定するのであれば、優秀な人材が建築士になることを敬遠する理由になることが予想されます
遺族は「裁判は人を裁くだけでなく、将来同じことが起きないようにするためのもの。本来は関係者全員が責任をとるべきものなのに、1人も裁かれないのは考えられない」と述べていますが、批判すべきは検察の無能さでしょう。
訴因変更をした時点で、当初の見立てと違っていることに気づいていたはずですが、撤退も方針変更も行いませんでした。
「ずさんな設計をした高木建築士」というストーリーを検察が過信していたのです。検察の威信は事実に基づく捜査を行い、有罪判決を得ることで築き上げられるものです。
間違いや見込み違いをゼロにすることは不可能ですが、ゼロに近づける努力を続けることはできます。そのためには、ミスに気づいた時点で柔軟に方針転換できるかが鍵と言えるでしょう。冤罪を生み出す原因は検察のずさんな体質も一因と言えるのではないでしょうか。