「東電の旧・経営陣が津波を予見できた」と認定するなら、“沿岸沿いの防波堤工事を怠り続けた行政” も同じロジックで有罪となる

 有権者によって構成される検察審査会の議決によって強制起訴され、業務上過失致死傷罪に問われていた東京電力の旧経営陣3人に対する裁判の判決が東京地裁で下され、全員に無罪が言い渡されたと NHK が伝えています。

 「津波が予見できたのに防波堤の設置を怠った」と認定できるなら、当時の政府および地方自治体も責任に問われることになります。なぜなら、東日本大震災では津波による死者が多数発生しているからです。

 活動家が悪者に認定された東京電力を吊るし上げることで活動実績をアピールしているに過ぎないと言わざるを得ないでしょう。

 

 福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、東京地方裁判所は、「旧経営陣3人が巨大な津波の発生を予測できる可能性があったとは認められない」として、3人全員に無罪を言い渡しました。

 (中略)

 東京地方裁判所の永渕健一裁判長は、裁判の大きな争点となった原発事故を引き起こすような巨大津波を予測できたかについて「津波が来る可能性を指摘する意見があることは認識していて、予測できる可能性が全くなかったとは言いがたい。しかし、原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」と指摘しました。

 

東京地裁の判決は妥当なもの

 東京地裁が下した判決の概要は以下のものです。

  • 津波を予測できる可能性が全くなかったとは言い難い
  • 原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない
  • 『ゼロ神話』に沿った措置を直ちに取ることも社会の選択肢として考えられる
  • 当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを前提としていない

 強制起訴で検察役を務めた指定弁護士を支持する “市民” は判決に不満でしょう。しかし、この判決は妥当なものです。

 指定弁護士は2002年に国が公表した『地震予測の長期評価』を根拠に「福島第一原発に最大 15.7m の津波が来る」との情報を2008年3月に報告されていたと主張したものの、裁判では予見可能性の観点から認められませんでした。

 なぜなら、この長期評価には具体的な根拠がなく、専門家から疑問が示されている代物でした。また、東日本の太平洋側に位置する地方自治体の防災計画にも反映されていなかったのです。

 これでは “東電だけ” を断罪する根拠にはなりません。「太平洋に面する複数の自治体で『長期評価』に基づく防波堤の建設が実施済みであるにも関わらず、東電(の当時の経営陣)はそれを怠った」と認定できる根拠がなければ、有罪判決を下すのは難しいと言えるでしょう。

 

強制起訴で有罪を勝ち取れるのは「検察がサボタージュをした事案」に限定される

 東京地裁で東電の旧経営陣が業務上過失致死傷罪に問われたのは「強制起訴」をされたからです。これは通常の起訴とは異なります。

 検察は起訴を見送っており、その判断に不満を覚えた “市民” らが検察審査会に訴えたことで強制起訴に持ち込まれました。

 検察審査会は有権者(= 20歳以上の日本人)名簿の中からくじ引きで選出された審査員によって構成されます。起訴に持ち込む条件である「11人の審査員から8名以上の多数」があったから、裁判として争えたと言えるでしょう。

 しかし、強制起訴された場合でも裁判の判決基準は通常のものと同じです。有罪判決を得るには「検察機構と同様に立証義務を果たすこと」が大前提です。

 検察が該当の事案をサボタージュでもしていない限り、強制起訴に持ち込んだとしても有罪にはならないでしょう。なぜなら、検察官役を務める指定弁護士が検察以上に有能であるケースはまずないからです。

 

「事故を防げないなら危険な原発を止めよう」という論理を適用するなら、自動車や病院なども止めなければならない

 朝日新聞の小森記者は「誰であっても事故を防げないなら、危険な原発を止めようとなるのでは?」とツイートし、判決に不満を示しています。

画像:朝日新聞小森記者のツイート

 この論理は問題と言わざるを得ません。なぜなら、「事故が発生すること」を問題視するなら、自動車や航空機の利用は「危険である」との理由で禁止されることになってしまいます。

 医療事故をゼロにすることも不可能ですから、「病院も止めるべき」との結論になります。これを認識できていない時点で論外と言わざるを得ないでしょう。

 事故がダメなら、誤報も当然ダメです。「誰が社長を務めても誤報が防げない危険なメディアを止めようとなるのでは?」と揶揄されることになります。

 

 事実確認を無視してまで活動家の希望する判決を出す必要はありません。「強制起訴の場合は被告側が無罪証明をする」とすれば、“魔女狩り” と同じ『推定有罪』が適用されることになるからです。

 反原発運動を続ける活動家の無理筋な主張に理解を示す必要はないと言えるのではないでしょうか。