リベラルはアレッポを見捨てろ、それが悲劇を止める最も効果的な解決策だ
シリアで起きている内戦で、欧米が支援する反政府勢力が極めて劣勢であることが鮮明になったことを受け、リベラル派が「アレッポ(の悲劇)を忘れるな」とのキャンペーンを展開しています。
しかし、内戦を泥沼化させた原因は “中途半端な介入” を続けたことにあるのです。口先だけでキレイゴトを述べるだけでは問題は解決することはないことを理想主義を色濃く出しているリベラル派は特に自覚しなければなりません。
“戦争” を終結させられる選択肢は限られている
まず、戦争(内戦)状態を終わらせることができる状態は限定されています。
その1つは「どちらかが圧倒的な戦力か支持を持っていること」です。トルコで軍部が起こしたエルドアン大統領に対するクーデターが例にあげることができるでしょう。民衆からの圧倒的な支持があった大統領の地位は揺るぎませんでした。
軍事力で大きな差がある場合も同様です。この場合、劣勢にある側の採れる戦術は “ゲリラ戦術” に限定されます。
その結果として、必然的にテロ組織と認定されることになりますので、国際社会からの風当たりは非常に強くなる将来が待ち受けているのです。
残る1つの選択肢は「双方の戦力・支持が拮抗し、戦闘に疲弊した場合」です。
これは朝鮮戦争のケースと言えるでしょう。アメリカとソ連・中国の代理戦争となりましたが、互いに疲弊したことで休戦協定が結ばれ、戦闘は終結して現在に至ります。
どちらか一方が「どれだけの損失を被ろうと、相手を絶対に根絶やしにする」という強い決意を持っていた場合、戦闘状態が継続することを知っておく必要があります。
欧米知識人が「アレッポの惨劇」を嘆くという欺瞞
シリアの反政府勢力がアレッポを拠点の1つとしていたため、劣勢になってからの激戦地として街は廃墟と化しました。
この情報が伝達されると、リベラル派は「惨劇を止められなかった」と嘆く茶番を展開しています。
要は、自分たちが述べた主張に酔っているだけなのです。戦闘によって街が破壊されることはシリア以外でも起きていますが、リベラル派はアレッポと同様に強い口調で批難することはありません。
ドネツクの街を破壊したウクライナ政府を批判したでしょうか。パレスチナを現在も破壊し続けているイスラエル政府に面と向かって「惨劇を止めろ」と啖呵を切る言論を述べた知識人がいたでしょうか。
“良い侵略” と “悪い侵略” のようにダブルスタンダードで主張内容を転換するような手法が共感を呼ぶことはないのです。
オバマが動かなかったことが問題ではなく、最悪の選択をし続けたことが問題
シリア騒乱では「オバマ大統領(アメリカ)が動かなかったこと」が事態を悪化させたという見解がリベラルを中心に出ています。
ですが、1番の問題はオバマ大統領が積極的にシリア問題に介入しなかったことではなく、対処策に『最悪の選択肢』を選び続けたことにあります。“アラブの春” がシリアに到達し、アサド政権が強硬な対応に出た時点で次のようなプランを持つべきでした。
「アサドは去らなければならない」と発言したのであれば、アサド大統領をシリア国外に追放することで目的は達成できます。この段階での現実的な解決策は「アサド大統領をシリア国外に亡命させること」だったでしょう。
- 東部:イラクに駐留する多国籍軍が西進を示唆
- 南部:ヨルダンを中心とする湾岸諸国を主体に北進
- 北部:NATO加盟国のトルコが南進
これにより、アサド大統領を首都ダマスカスから地中海に面した北西部のラタキアに避難させ、「大統領が亡命を選択することで戦闘を終結させる」というシナリオに持ち込むべきだったのです。
自国の兵士に対し、「シリアのため、命を捨てろ」と顔出し+実名で言えますか?
シリアに地上部隊を出す可能性が高かったのはトルコでしょう。トルコ建国の父の霊廟がシリア国内にあり、アサド政権との関係も悪く、「霊廟がある地域まではトルコ領内とする国境線の書き換えを認める」という取引で動く理由ができたからです。
ところが、オバマ政権はトルコがテロ組織と認定するシリア国内のクルド人勢力に地上部隊の役割を担わせるという大きな判断ミスをしました。
クルド人勢力がアメリカの期待通りにアサド政権を倒せば、次の狙いは敵対するトルコになるでしょう。敵対するテロ組織を強化するような諸外国の方針に協力できないのは当たり前のことなのです。
アサド政権を倒すことで利益を得られる国の1つであるトルコが動かない中では、他の国は自国の兵士を地上部隊として派遣する理由を見つけることはできません。
「シリアのため、命を捨てろ」と言った人物が、自国の民衆から喝采を受けることはないでしょう。むしろ、「なぜ自国の国益とならないシリアのために、国民の命を危険にさらす必要があるのか」と指摘され、答えに窮することになると思われます。
欧米などリベラル派は “アレッポの惨劇” を嘆きますが、惨劇を止める最も効果的な手段である「自国軍隊を地上部隊として派遣すること」は決して声高に主張しないのです。
過激派組織の『IS』が猛威を振るったのは戦闘員が世界中から集まったからです。口先でどれだけキレイゴトを述べても、「武器を持ったテロリストによる支配を変えることはできない」という現実を見る必要があります。
地上部隊を出さないなら、アレッポを見捨てることが損失を最小にする
反政府勢力が「武器を持って、政権と戦う」と選択した以上、「流血を止めろ」と国際社会がどれだけ叫んでも無意味です。
その主張を受け入れることは「分離独立を訴える武装集団に隆起を促す要因になるから」です。常任理事国の1つ以上を味方に付け、戦闘を泥沼化させれば、分離独立の確定的な要素となる形で停戦が促され、結果として分離・独立という目的が達成できるというメッセージを世界中に送ることになるでしょう。
リベラル派は世界中で分離独立闘争を引き起こしたのでしょうか。
安全な国に身を置き、「アレッポの出来事は悲劇だ」と嘆く。「流血を止めろ」とは叫ぶが、「アレッポの惨劇を止めるため、シリアに地上部隊を派遣せよ」と自国政府に対しては訴えない。
このような茶番をするなら、アレッポを見捨て、戦況の構図を確定させた方が騒乱による被害は最小限に食い止めることができます。
(リベラルにとって容認できない)アサド政権であっても、国内を秩序立てて統治させる方が飢えた国民の数を圧倒的に減らすことができるはずです。そして、アサド政権の下で自国企業にシリアに投資させ、シリアを復興させるという選択肢もあって良いでしょう。
しかし、リベラルは “シリアのアサド政権” という価値観を認めておらず、多様性そのものを否定していると言わざるを得ないものがあります。
『アレッポ』に言及することがリベラル派のブームなのでしょう。ボコ・ハラムを批判した時のように一過性のもので、現実的な解決策を提示していないのですから、“リベラルの偽善” に踊らされたことによる悲劇は続くことになるでしょう。
皮肉なのは悲劇が起きるのはシリア国内だけでなく、リベラルたちが生活する先進国も対象であるこという現実なのではないでしょうか。