「貢献度のあった人物」と球団から見なされていない OB を現役選手が知らないこと当然だ

 田所龍一記者が「OB の顔と名前が一致しない選手は問題」との記事を書いています。

 しかし、毎年10人前後が入れ替わり続けるプロ野球球団の OB の顔と名前が一致する人などいないでしょう。また、チームへの貢献度が低かったり、現在も球団のイベントなどに積極的に顔を出す OB でなければ、現役選手は知らなくて当然です。

 スポーツビジネスのことをよく知らない記者が自らの思い込みで書いた残念な記事と言えるでしょう。

 

 5月3日、甲子園球場で行われたウエスタンリーグ「阪神-広島」戦の試合前のことだ。この日、球場OB室には元監督の安藤統男氏(スポーツ報知評論家)の姿があった。

 「同郷(茨城県)の大山を激励しようと思ってね」。聞けば、まだ一度も会っていないという。 筆者は試合開始1時間前、大山に「安藤元監督が君を激励したいとOB室にいるよ」と声をかけた。すると、彼は「安藤さん?」と首をひねった。なんと、知らなかったのである。

 (中略)

 自分が入団した球団がどんなチームだったのか。どういう戦いをし、伝統を築いてきたのか。そして、それを支えた先輩たちの雄姿をなぜ、球団は教えようとしないのだろう。新聞社に依頼すれば、当時の記事はすぐに集まる。放送局に頼めば、かつてのスターたちの映像が手に入るではないか。

 少なくとも、球団のタイトルホルダー、歴代監督、そして現在、評論家として活躍しているOBたちの顔と名前ぐらいは、選手に教育すべきだろう。

 

 

1:ファンが知っておくべき “レジェンド” がいるなら、球団側が SNS で紹介し続ける必要がある

 ファンに知っていて欲しい “レジェンド” がいるのであれば、球団側が SNS の公式アカウントを使い、発信し続ける必要があります。

 阪神タイガースの件で言いますと、公式ツイッターでは予告先発投手の発表はありますが、「5月13日の公式戦で起きたこと」の紹介はありません。これは欧州サッカーの強豪チームを参考に公式アカウントの運用方法を改善する余地が大いに存在する部分です。

画像:インテル・ミラノの公式ツイート

 例えば、サッカー日本代表の長友佑都選手が所属するインテル・ミラノは「5月10日はクラブのレジェントで、現副会長のハビエル・サネッティ氏の現役ラスト試合でした」とのトリビアを紹介しています。

 毎年140試合前後の公式戦を行うプロ野球球団も同じように「過去の名勝負」や「レジェンドの活躍」を紹介し、若い世代やファンに積極的にプロモーション活動を行うことは言うまでもないことです。まず改めるべきは “球団側の姿勢” だと言えるでしょう。

 

2:OB も貢献度で評価される対象である

 球団 OB であっても、球団への貢献度によって対応が異なります。また、現在の立場によって対応に違いが出てくることは当然なのです。

  1. チーム黄金期の主力選手
  2. 生え抜きの主力選手(タイトルホルダー)
  3. FA やトレードで加入し、主力として活躍した選手

 野球がチームスポーツである以上、チームの黄金期に主力として活躍した選手が “レジェンド” としてファンから愛され、知名度が高いことは当然です。「生え抜き選手」と「FA やトレードで加入した選手」に生まれる差は在籍年数が「生え抜き選手」の方が長くなる傾向があるため、評価が高くなりやすいのです。

 引退後、現役時に所属していた球団の “アンバサダー” として活動している OB は紹介されやすいでしょう。なぜなら、チームの知名度向上などマーケティングの分野で貢献しているからです。

 しかし、“評論家” として活動しているのであれば、「チームとは一線を画している」ことを意味しています。そのような立場にある OB を “レジェンド” として扱い、講演会のために箔をつけるようなプロモーションを球団側が担うことはあり得ないことなのです。

 

3:“かつてのスターの映像” から「現代の OB の風貌」が分かるのか

 田所龍一氏は「かつてのスターの記事・映像から現代の風貌が分かる」と考えている点です。新聞社や放送局に依頼すれば、過去の記事や映像を簡単に入手できるでしょう。

 しかし、当時の記事や映像をどれだけ見たところで、当時のスター選手が現在どのような見た目になっているかは分からないのです。もし、分かる明確な根拠を持っている人がいるなら、すぐに警察署に行き、指名手配犯の逮捕に協力すべきです。どれだけ的外れな提案であるかを改めて指摘する必要はないと思われます。

 新聞社や放送局からすれば、過去の記事・映像をプロ野球球団が使いたいとの依頼は売上アップに貢献することです。メディアの売上増を狙った提灯記事でなければ、質の低い記事を書いていると言わざるを得ません。

 

 20年近く “暗黒期” があった阪神タイガースが球団の歴史を教えることは簡単なことではありません。また、現役引退後に評論家として生計を立てる OB の顔と名前を現役選手が一致させる必要性はないのです。

 覚えるべき OB の顔と名前はファンにも分かるように球団側が SNS の公式アカウントを通して発信すれば済む話だからです。

 メディア側の人間である “評論家” に現役プロスポーツ選手が便宜を図る必要はありません。「球団 OB である評論家の顔と名前を覚えさせるべき」と主張するメディア関係者は自分が懇意にしている評論家に挨拶にきた選手からコメントを取り、記事のネタ元にしたいだけなのです。

 OB の肩書きを使って生計を立てているのであれば、球団がブランド力を高めるための活動を通して積極的に還元しなければなりません。中立な立場の “評論家” で勝負するなら、いいとこ取りは避けるべきなのではないでしょうか。