財務次官のセクハラ疑惑問題は少なくとも「4つの問題点」が混在、どれか1つに矮小化する行為は問題

 財務次官がテレビ朝日の女性記者にセクハラしていた疑惑が報じられた件ですが、少なくとも以下の4点が入り乱れている状況です。

  1. 次官のセクハラ疑惑(と財務省の対応)
  2. セクハラ被害の相談を受けた後のテレビ朝日の対応
    (=社内でのセクハラ&パワハラ問題)
  3. 女性記者が無断録音データを他社に渡した問題
  4. フリーの記者が女性記者の実名を暴露した問題

 いずれの件も独立した事象であり、どれか1つの問題に矮小化することはできません。それぞれの問題が抱えている原因と対策をきちんと報じることができているかを見る必要があると言えるでしょう。

 

1:「財務次官のセクハラ疑惑」と「財務省の対応」

 まず、セクハラ疑惑が持ち上がった後の「財務省の対応」に問題はありません。財務省が「次官のセクハラ発言疑惑」を処分する根拠となるのは男女雇用機会均等法11条です。

 セクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応を講じることが法律で定めれているのですが、そのためには「事実関係の迅速かつ正確な確認」が必須なのです。

 つまり、セクハラ疑惑を否定する次官を処分するには「財務省がセクハラと定義する不適切な行為が確認できた」という根拠が必要不可欠です。当事者が争っている中で事実関係の確認を怠り、“見切り発車” で処分を科す行為は明らかな人権侵害に該当することなのです。

 一部で「(ほとんどの)性犯罪は非親告罪」との理由から「被害者は名乗り出る必要はない」と主張する声があります。その意見は正しいのですが、刑事事件として告発するのであれば、財務省は “蚊帳の外” に置かれることになります。

 財務省(と安倍政権)に求められいるのは「司法の代わりに制裁を科す」のではなく、「セクハラと定める行為に該当していたのかの調査を実施し、調査結果や処分内容を速やかに公表すること」だと言えるでしょう。

 

2:テレビ朝日の内部でのセクハラ問題

 次に、「財務次官のセクハラ疑惑」とは別に、テレビ朝日の内部でセクハラが発生していた事実が浮き彫りとなりました。この問題は「疑惑」ではなく「確定」であることが大きな問題と言えるでしょう。

  • セクハラ被害を受けた女性記者への対処
    → 配置換えや抗議などの対策を行わず
  • 女性記者の意向(=報道して欲しい)を黙殺

 セクハラ被害を訴えた女性記者に対する救済措置を講じていないことは問題です。テレビ朝日の経済部は14人体制(2017年2月時点)で、官庁チームと民間チームがそれぞれ5名となっています。そのため、セクハラ被害を受ければ、容易に取材対象先を変更できたはずです。

 しかし、そうした当然の対処をしておらず、財務省への抗議も行っていないのです。

 また、告発報道を希望した女性記者の意向を黙殺した訳ですから、テレビ朝日は「財務次官からセクハラを受けた女性記者への上司らによるパワハラ&セクハラ」に対する調査・報告は避けられないと言えるでしょう。

 

3:女性記者の無断録音および他社への情報漏洩

 テレビ朝日の女性記者は「セクハラの被害者」という立場と「オフレコ情報を漏洩した加害者」という二面性を保持しています。

 女性記者は「オフレコでの取材」という建前で実際は録音をしていました。しかも、無断で録音データを第三者(=週刊誌)に渡したのです。

 これは「取材源の秘匿」に抵触する行為であり、過去に朝日新聞で起きた際には記者が退社処分となっています。もし、この女性記者に週刊誌へのリークを促した人間がテレビ朝日内部にいれば、その人物も懲戒処分に科さなければならないレベルのことなのです。

 「セクハラの実態に抑えるために録音は必要」と女性記者を擁護する声がありますが、『無断録音すること』と『無断録音したデータを公表すること』は別物という認識が欠けているのでしょう。

 今回は「無断で録音したデータを第三者に横流しし、世間に公表した」のです。この行為は名誉毀損や業務妨害に直結する行為であり、人権侵害に該当すると言えるでしょう。こちらの件も有耶無耶にはできないことなのです。

 

4:フリーの記者が民進党代表の取材時にテレビ朝日記者の実名に言及

 最後に「セクハラ被害を受けたとされるテレビ朝日女性記者の実名が知れ渡った」という問題です。

 テレビ朝日は本人特定による二次被害を避けるために被害を受けた(とされる)記者や上司の名前を伏せ、マスコミにも要請して来ました。

 しかし、フリーの記者が民進党の大塚代表を取材した際にテレビ朝日女性記者の実名に言及。当事者(=民進党やテレビ朝日)が「その方で間違いありません」と認めるような事後対処をしたため、本人が特定される結果を招くこととなりました。

 女性記者は「セクハラ被害が報道されること」を望んでいましたが、本人が被害者であることをカミングアウトする意志があったのかは不明です。少なくとも、テレビ朝日の希望とは真逆の結果になったことは確実でしょう。

 「実名報道は控えるように」との要請が出ていたにもかかわらず、メディアが堂々と無視をした点は問題視されるべきことです。ただ、マスコミが問題視することはないでしょう。なぜなら、事件・事故に遭った人の家族や遺族の意向を無視して実名報道をしてきた経緯があるからです。

 マスコミ内部に被害者がいる場合に限り、被害者側の要望が通るなどというダブルスタンダードが世間に受け入れられるとは考えにくく、同情を呼ぶ可能性は低いと思われます。

 

 「財務次官によるテレビ朝日の女性記者へのセクハラ疑惑問題」は少なくとも4項目分類が可能なのです。これら4項目すべてにおいて、原因究明および対策・処分が求められており、どれか1つに矮小化しようとする動きは論外と言えるはずです。

 中でも、セクハラ&パワハラが起きていたことが確定したテレビ朝日に批判と処分を要求することは避けようがありません。もし、そうした声を上げようとしない人物がいるのであれば、テレビ朝日に忖度していると言えるでしょう。リベラルの化けの皮が剥がれ落ちることになる案件と言えるのではないでしょうか。