国境管理厳格化でメルケル政権の崩壊は免れるも、ドイツ以外の国との難民問題を巡る軋轢は続く

 難民問題で政権崩壊の危機に面していたドイツのメルケル首相ですが、国境の管理を厳格化することでゼーホーファー内相と合意に達したと NHK が伝えています。

 これにより、メルケル政権の崩壊は(一時的に)免れたと思われます。しかし、「騒動を引き起こしたドイツに対する周辺国の視線は厳しいまま」です。

 周辺国は “ドイツが呼び寄せた難民” への対応を余儀なくされている状況であり、「メルケル政権がどのような落とし前を付けるのか」が今後の焦点になると言えるでしょう。

 

 ゼーホーファー内相は要求が認められなければ辞任すると表明し、政権崩壊の危機も懸念される中、メルケル首相は、2日、ベルリンで内相と会談しました。

 その結果、隣国のオーストリアとの国境に難民や移民の一時的な滞在施設を設置し、ほかのEU加盟国で難民申請を済ませた人は関係国との同意に基づいて送り返すなど、国境管理をより厳しくすることで合意しました。

 メルケル首相は、「EUの連携を守ると同時に、すでにEU域内に入った難民や移民の移動も抑制する重要な一歩だ」と評価しました。

 ドイツの本音は「これ以上、難民に対するドアを開けていられない」と言うものでしょう。

 「難民が経済成長に貢献する」と主張する識者も過去にはいましたが、それが間違いであったことはドイツが証明しています。しかも、“損切り” しようにも、簡単にはできないという問題がこれから明るみに出ることは確実です。

 少なくとも、メルケル首相の振る舞いを反面教師とする必要があると言えるでしょう。

 

「最初の入国先に送還する」という解決策に含まれる問題点

 メルケル首相は6月29日に「ギリシャとスペインからドイツに入国した移民・難民を送り返す」との二国間合意に達したと発表しています。ただ、両国とも “訳あり” であることを見落とすべきではないでしょう。

  • ギリシャ:財政破綻状態でドイツ(≒ EU)に反対できる立場ではない
  • スペイン:難民の絶対数が少なく、負担が限定的

 送還先となるギリシャやスペインが受け入れを容認しても、ドイツ国内にいる難民の送還にゴネる人権団体が「送還反対」を訴えた裁判を起こすでしょう。そのため、「効果が現れるか」という点においては疑問が残るところです。

 また、ギリシャやスペインは「地中海を渡ってくる難民数が増加している国」であり、イタリアのように「地中海を渡ってくる難民によって頭を悩ませている国」ではありません。ただ、現状を放置するとイタリアのようになることは明らかであり、対策を講じておく必要があると言えるでしょう。

 

「ドイツの NGO が地中海で難民を “救助” し、周辺国を押し付けている」という問題

 また、地中海で『人道支援』を理由に活動する NGO の存在がドイツと地中海沿岸諸国の関係を緊張させる原因になっています。CNN が報じた一例を紹介することにしましょう。

  • ドイツの NGO 『ライフライン』はリビア領海で 300~400 人を助けたとし、イタリア沿岸警備隊に支援を要請
  • イタリアのサルビーニ内相が当該船舶のイタリア入港を拒否
  • 「船籍のあるオランダで下船すべき」とサルビーニ内容は『ライフライン』に要求

 このような行為が地中海では横行しているのです。難民が押し寄せる(イタリアなどの)地中海沿岸国が難民に厳しい立場を採り始めるのは当然と言えるでしょう。

 まず、リビア領海で人命を保護するのはリビア政府です。にも関わらず、ドイツの NGO がオランダ船籍の船舶を使って、リビア領海内で難民を救助しました。その上、最寄りの EU 加盟国であるイタリアに支援(= 難民希望者の引き取り)を要求しているのです。

 メルケル首相は「難民を “EU での最初の入国先” に送還する」と発表しましたが、ドイツの NGO は「 “EU での最初の入国先” を地中海沿岸国にする活動」を行っているのです。これでは EU 加盟国が難民問題で歩調を合わせることは極めて難しいと言えるでしょう。

 

 ドイツ(=メルケル首相)が難民を呼び寄せる発言をし、その主張に賛同する(ドイツの)NGO などが現在もヨーロッパに難民を輸送し続けているのです。この行為に自制を促さない限り、難民問題が解決に向かうことはないでしょう。

 難民保護に最終的な責任を負う立場にない国連機関が「人道的観点からの受け入れ」を要請したところで、受け入れ国の国民からの反感を買うだけであることを自覚する必要があると言えるのではないでしょうか。