日本人女性との間に子供を持つパックンが大坂なおみ選手の全米オープン制覇を機に二重国籍容認論を主張する

 大坂なおみ選手がテニスの全米オープンを制しましたが、この快挙に乗じて日本女性との間に生まれた子供を持つ外国人男性がここぞとばかりに「日本は二重国籍を容認すべき」とメディア上で主張しています。

 その1人が “パックン” ことパトリック・ハーラン氏でしょう。ニューズウィークで主張していますが、事実確認を間違えている点は指摘しておく必要があります。

 

大坂なおみ選手は『アメリカ代表になる資格』を喪失している

 まず、パックンの主張に含まれている根本的な間違いは「大坂なおみ選手がアメリカ代表になれる道は残されている」との前提を持っていることです。なぜなら、大坂なおみ選手は(アメリカ国籍を選択しても)現行ルールではアメリカ代表になることはできないからです。

 パックンは五輪憲章を理由に「3年経過しなければ、他の国の代表になれない」と述べていますが、テニスでは ITF (国際テニス連盟)が2015年1月1日から「国籍変更は不可」にルールを変更しています。

 大坂なおみ選手は2017年の時点で女子国別対抗戦(= フェドカップ)に日本代表と出場しているため、『アメリカ』への変更はほぼ不可能と言えるでしょう。

 過去にスロベニア出身でイギリスを練習拠点にしていたアルヤズ・ベデネ(Aljaz Bedene)選手がイギリス国籍を取得後に ITF へ国籍変更を申請しましたが、ITF は「ベデネ選手が過去にデビスカップでスロベニア代表としてプレーしていたこと」を理由に変更申請を却下。ベデネ選手は訴訟でも敗れ、現在はスロベニア代表として再びプレーしているからです。

 

『国籍:日本』は『国籍:アメリカ』よりも、テニスでの五輪出場の可能性がある

 大坂なおみ選手はテニスでの登録国籍を日本にしました。大坂選手の父親が『日本』をプッシュしたとのことですが、これは「打算」も働いていたからでしょう。

 テニスの場合、オリンピックに出場できるのは男女それぞれ64選手です。ワールドランキングで56選手が選出され、ITF が8選手を推薦するという形が採用されています。ただし、「1ヵ国から出場できる上限は4選手」という制約があります。

 つまり、女子の選手層が厚いアメリカではランキング30位台でも、自分よりも上位に4選手以上がランクインしていれば、オリンピック出場は不可能になってしまうのです。

 この点、日本はランキング50位以内に複数の女子選手をランクインさせる “テニス大国” ではありません。「マーケット」だけでなく、「ランキング」という点も登録国の選択に影響を与えた可能性があると言えるでしょう。

 

「22歳の時点で “多額の財産” を持つ日米の二重国籍者」は例外中の例外

 パックンが述べている「アメリカ国籍離脱時に財産の20%を支払う必要がある」というのは資産を持つアメリカ人が納税を回避することを防ぐことが目的です。

 「日本国籍をどうするのか」の選択が迫られる22歳の時点で、億単位の財産を有する日米の二重国籍者は片手で足りるでしょう。大学卒業時の段階でアメリカの『国籍離脱税』に頭を悩ませる人は限りなくゼロに近いと考えられるからです。

 また、「韓国を例に出し、条件を満たす外国人にも二重国籍を認めるようになった」と述べていますが、これは特別帰化制度のことでしょう。韓国はこれをオリンピックのアスリートを対象に使っており、ピョンチャン(平昌)冬季五輪では男子アイスホッケーの選手が代表例です。

 いずれにせよ、絶対的多数の一般的な二重国籍保有者には無縁な話です。「 “韓国人アスリート” の選手層が薄いが、自国開催のメンツがあるため、オリンピックに出たい欧州系の選手に一時的に国籍を与える」という措置が競技の土台を作る上で大した貢献をしないことは自明だからです。

 

 大坂なおみ選手のような「例外中の例外であるアスリート」を “ダシ” に『日米二重国籍状態の子供』を持つ識者が「二重国籍の容認を」と訴えたところで、我田引水と言えるでしょう。なぜなら、我が子が日本とアメリカの “いいとこ取り” が可能になるからです。

 日本政府に「二重国籍の容認」を求めるなら、真逆に舵を切った ITF (国際テニス連盟)にも同様の主張をしなければなりません

 それができないのであれば、二重国籍容認論者は自分の子供などの “二重国籍による利益を人物の代弁者” として活動しているに過ぎないと言えるでしょう。二重国籍を維持したいのであれば、国籍保有国の双方で単一国籍保有者と同じだけの納税をすることが条件だと言えるのではないでしょうか。