抗議デモによる成果が得られたことで、フランスでは年が明けてもデモ活動が続く
2018年11月からマクロン政権への抗議デモが続くフランスで、新年最初の週末である1月5日にも各地でデモ活動が発生していると NHK が伝えています。
正規の手続きを無視し、トップダウンでデモ隊の要求が認められたのです。抗議デモを行う側は “前例” に習う形で「新たな要求」をしてくることは想定されたことであり、活動を止める必要がないことは明らかです。
混乱はしばらく続くことは確実と言えるでしょう。
フランスでは去年11月からマクロン政権に対する抗議デモが毎週末行われ、年が明けた5日も全国各地でデモが起き、内務省によりますとおよそ5万人が参加しました。
このうちパリでは参加者たちが中心部を行進し、排除にあたった警官隊と衝突したほか、一部が暴徒化して政府庁舎の扉を破壊し建物のなかに侵入して、一時、政府報道官が避難する事態になりました。
マクロン政権はこれまで、デモのきっかけとなった燃料税の引き上げの中止や最低賃金の改善などの対策を打ち出していますが、デモが収束する兆しはありません。
“デモ隊の一部” を懐柔するだけの『妥協案』で収束するなら苦労はない
フランスの各地で抗議デモが収束に向かう兆しが見えないのは「マクロン大統領がデモ隊に成果を与えてしまったから」です。
これは議会制民主主義を採用する国のトップが下した判断としては最悪のレベルです。なぜなら、議会や議員の存在価値をゼロにしてしまう愚行だからです。
有権者の支持を得た人物が議員なり、議会を構成し、そこで国の政策が決定するのです。「デモ隊の主張内容に賛同する議員や政党からの要請を受けて議会で議論を行い、トップのマクロン大統領が政策変更を決断した」というケースなら、デモ活動は収束に向かったでしょう。
しかし、マクロン大統領がデモ隊の意向を直接汲み取ってしまったのですから、「その意向だけでなく、この意向も汲み取るべき」との “陳情” が活発になるのは当然です。ある意味で自業自得と言えるでしょう。
「拝聴に値する主張である」と示す唯一の手段は『選挙の結果』である
「有権者の支持を得ているか」が示される唯一の手段は『選挙』です。
メディアによる『世論調査』は一般的に行われていますが、“私企業” であるメディアは党派性に偏りがある上、サンプル数の関係から「正確な民意」を計ることは不可能です。そのため、何千万人が実際に各個人の立場を表明する『選挙』が持つ意味合いは大きいのです。
国の予算は有限ですし、すべての要望に応じることはできません。どうしても、優先順位を付ける必要が生じます。
そこで『拝聴に値する主張』であるかを示せるかが大きなポイントになるのです。『選挙』で多数派を得た政党からの要求事項は「多くの有権者が要求している項目」と判断して問題ないでしょう。
しかし、多くの有権者が抗議デモを支持しているかの判断をすることは不可能です。ゴネ得狙いのデモ隊に譲歩したことによる “ツケ” を払うことになるのは「これからが本番」と言えるはずです。
フランス国内から “激しい突き上げ” を受けるマクロン政権に『国外案件』にまで気を配る余裕はない
過激な抗議デモにより、フランス政府が要求を満たしてくれたのです。“前例” ができた訳ですから、前例を理由に抗議活動を継続することになるでしょう。
デモ隊には抗議活動を止める理由はありません。「交渉相手であるフランス政府から追加の譲歩を引き出せる大きなチャンス」を迎えているからです。
マクロン政権への抗議活動は今後も継続されることが予想される上、それは政権への “激しい突き上げ” となるでしょう。その結果、マクロン政権が『国外案件』にまで干渉する余裕はなくなっていくはずです。
具体的には「地中海経由の移民・難民問題」や「カルロス・ゴーン氏の問題」への対応の優先度が大きく下がることが予想されます。なぜなら、これらの案件ではマクロン政権の従来方針(= 移民・難民やゴーン氏の支持)がデモ隊を逆なですることになるからです。
そのため、動きたくても動けず、沈黙を貫くことになると考えられます。
日本の政治家はマクロン政権の判断を『反面教師』にする必要があるでしょう。デモ隊の主張を取り入れることは「議会制民主主義の否定」と変わらないからです。
独裁を否定するのであれば、議会という民意が代弁された機能を損ねる判断を下した国家首脳に対しても厳しい批判をする必要があると言えるのではないでしょうか。