“皇道派” として振る舞うマスコミが戦前の雰囲気を作り出している元凶だ

 毎日新聞の遠山和宏記者が「天皇陛下が退位議論にショックを受けた」との記事を書き、紙面一面で取り上げられています。

 発言自体の信憑性が疑わしいものですが、「皇室典範の改正」は “政治マター” です。『大御心』を “忖度” し、自分たちの政治主張を通すために皇室を政治利用すること自体が問題と言えるのではないでしょうか。

 

 天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議で、昨年11月のヒアリングの際に保守系の専門家から「天皇は祈っているだけでよい」などの意見が出たことに、陛下が「ヒアリングで批判をされたことがショックだった」との強い不満を漏らされていたことが明らかになった。陛下の考えは宮内庁側の関係者を通じて首相官邸に伝えられた。

 陛下は、有識者会議の議論が一代限りで退位を実現する方向で進んでいたことについて「一代限りでは自分のわがままと思われるのでよくない。制度化でなければならない」と語り、制度化を実現するよう求めた。「自分の意志が曲げられるとは思っていなかった」とも話していて、政府方針に不満を示したという。

 

 毎日新聞が書いた記事には問題点が複数存在します。1つは「保守系の専門家からの意見を恣意的に切り取っていること」、もう1つは「陛下の御意を忖度せよと主張し、憲法を無視していること」です。

 これはリベラルの凋落が止まらない典型例と言える報道です。

 

「有識者が陛下の公務を否定していないこと」は議事録から明らか

 毎日新聞が悪質なのは読者は議事録を確認しないため、「祈るだけで良い」との切り貼りを平然と行ったのでしょう。

 しかし、有識者会議は議事次第と議事録が公開されています。切り取りが行われたのは第3回(PDF)平川祐弘東京大学名誉教授の発言です。

 最初に申しましたように、天皇家は続くことと祈るという聖なる役割に意味があるので、それ以上のいろいろな世俗のことを天皇の義務としての役割とお考えになられるのはいかがなものか。

 代々続く天皇には、優れた方もそうでない方も出られましょう。健康に問題のある方も皇位につかれることもありましょう。今の陛下が一生懸命なさってこられたことはまことに有り難く、かたじけなく思います。

 (中略)

 ○ 御公務の第一は祈りですか。

 ○ 公務といいますか、役割ですね。それは憲法の解釈の上ではなくて、歴史的にそうだったのではないか。神事を先としというのは順徳天皇のときからそういうことは記録されているわけで、明治天皇は戦後の天皇よりも国事に深く関係されたと思いますけれども、一番国事に関係されたに相違ない日露戦争の翌年です。そのときに先ほどのような歌を詠まれて、やはりまず神事である。祭事である。その次が政事だとおっしゃっているので、これは大切な教訓ではないかと思います。

 

真偽不明の “陛下のお気持ち” を政治利用することは憲法に違反する

 毎日新聞は退位に関する有識者会議で述べられた意見を恣意的に切り取り、「陛下が不満を抱いておられる」と信憑性に疑いがある発言に忖度するよう求める記事を書いています。

 政治的発言にならないようコメント1つにしても、細心の注意を払っている陛下がそのような見解を述べることがあるでしょうか。仮に、陛下がそのような認識を持っていたとしても、それをマスコミに流すような人物は厳しい批判にさらされるべきです。

 なぜなら、憲法で「天皇の活動」は制限されているからです。法律である皇室典範の改正内容に意見することは政治活動であり、宮内庁の関係者による発言はあまりに不見識すぎるのです。

 第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

 “護憲派” として行動するのであれば、率先して憲法の条文内容を守るべきでしょう。それを平然と無視し、政権批判を行うことに利用しているのですから、やっていることは「二二六事件」を起こした皇道派の青年将校と同じなのです。

 

「皇道派の主張」を現代社会で訴え、戦前回帰を加速させるマスコミ

 「戦前回帰が進んでいる」と主張するマスコミ自身が『皇道派の主張』を展開していることは皮肉な状況です。

 皇道派が二二六事件を起こした理由は「陛下の御意を(時の政権が)忖度していない」というものでした。これと同じことを左翼(自称・リベラル)が展開していることは救いようのないことです。

 「奸臣を排除すべき」との理由で軍事クーデターを起こし、民主主義が破壊されたことを毎日新聞などは学んでいないのでしょうか。リベラル派はいつから戦前右派に転向したのでしょう。「大御心に忖度せよ」という主張にはそのような意味が含まれているのです。

 戦前回帰を加速させているのは他ならぬマスコミ自身なのです。戦時中であれば、マスコミの業績は上向くため、戦争が起きて欲しいと心底願っているのは軍需企業ではなく、メディアであることを覚えておく必要があると言えるでしょう。

 

名君たる人物ばかりが続く保証はない

 有識者会議で懸念として示された「将来の天皇に求める能力的な条件をどうするか」という点はさらなる議論が必要となるでしょう。

 昭和天皇・今上陛下と戦後に天皇として公務を行われたお二人はどちらも『名君』と呼ばれるに十分すぎるほどですが、そのような人物ばかりが代々続く保証はどこにもありません。健康面や素行面に不安がある方が皇位継承者となる可能性もあり、その点も考慮しておく必要はあるはずです。

 民進党はどさくさに紛れる形で女性宮家の創設を主張していますが、退位に合わせて実施する必要のない議論テーマです。むしろ、「将来の天皇陛下に求めること」と合わせて議論すべき点と言えるのではないでしょうか。