過疎地で医療水準を保つ条件は「都会と遜色ない自由度をどれだけ医師に提示できるか次第」である

 「年収2200万円など様々な条件で医師を募集するも、医者は応じてくれなかった」と NHK が報じています。

 残念ですが、当然の結末でしょう。なぜなら、医師に提示された “自由度” があまりに少なすぎたため、敬遠されたからです。同様の問題は全国で起きる可能性があるだけに反面教師とすべき事案と言えるでしょう。

 

 日本海に面した青森県深浦町は、町内に常駐する医師が1人しかいなかったため、4年前、新たに町営の診療所を開設する計画を打ちたて、年収2200万円や、家賃や光熱費が無料の住宅を提供するという条件を示して医師を募集しました。

 これまでに2人の医師が応募しましたが、家庭の事情などを理由に辞退し、結局、去年12月まで3年余りかけても1人も採用できませんでした。

 NHK の記事では言及されていませんが、深浦町の募集では「在宅療養支援診療所として365日、24時間診療及び訪問看護を提供できる在宅医療体制を構築」と記載されています。

 都会部の募集でも敬遠されるでしょう。しかも、診療所の敷地内に住居が用意されているのですから、プライベートは実質的に存在しないという点も嫌われる大きな要因となったはずです。

 

“24時間働かせ放題” でプライベートは絶望的

 青森県深浦町の募集条件はかなり悪いものです。年収2200万円で応じる医師はほとんどいないと断言できるでしょう。

  • 常駐の医師は2名
  • 町は「365日、24時間診療及び訪問看護の提供」を宣伝
  • 提供される住宅は診療所に隣接

 要するに、24時間365日拘束された状態(=オンコール状態)なのです。

 「先生、すぐに来てください」と言われると対応が求められますし、就寝中に「先生、すぐに診てください」と患者に叩き起こされるケースも起こり得るのです。

 これで年収2200万円は「とても割に合わない」と言えるでしょう。しかも、“モンスター患者” が発生した場合、医師を守ってくれる体制が確立されていない問題が全国の様々な場所で起きていることも見落とせません。

 

クレーマーやモンスター患者から医師を守れるのか

 過疎地で常勤医師が定着しない理由は「クレーマーやモンスター患者から医療従事者が守られていないから」です。

 沖縄県の離島・北大東島(北大東村)が「医師不在」の事態に直面している。島の県立診療所にただ一人配置されていた常勤の女性医師が交通事故を巡って酒気帯びの男から脅迫される事件に遭い、身の危険を感じて2月上旬に避難したためだ。

 上記は毎日新聞が2017年3月に報じた記事ですが、似たケースは全国で起きていることでしょう。

 “輩” は全国津々浦々にいますが、過疎地では「輩の患者を出禁にできない」という(人道上の)問題があります。そのため、「輩が増長し、医師は自らの身を守るために僻地を敬遠する」という悪循環を招くのです。

 この問題を解決できなければ、定着に向けたハードルは残されたままと言えるでしょう。

 

「専門性を磨けない」という問題も無視できない

 また、医師として「専門性を磨けない」ことも軽視できない問題です。

 医師には医療知識をアップデートし続けてもらう必要があります。しかし、僻地で24時間365日拘束するようでは専門性は時間の経過とともに時代遅れになります。

 高い医療水準を提供したいのであれば、医師が専門性を高めることが可能な環境を準備することが欠かせないと言えるでしょう。

 

 “常勤医師” に拘る地方自治体がある限り、僻地の医師不足は解消されないと思われます。高い医療水準を維持したいのであれば、複数人の医師と契約を締結し、医師の勤務体系に柔軟性を持たせることが近道です。

 「患者は医者を選べない」との声がありますが、「医者も患者を選べない」のです。“患者” と呼ぶに値しない横暴な人物の振る舞いに対し、泣き寝入りを強いられるような労働環境で働こうとする医師はいないでしょう。

 条件を提示するのであれば、金銭面の他にも相応の対価を提示する必要があると言えるのではないでしょうか。