「メディア規制」を日本に要求する中国共産党の姿勢に反論しないメディアに『報道の自由』を語る資格はない

 中国共産党のソン・タオ(宋濤)対外連絡部長が日中与党交流協議会での講演で「日中両国関係の発展のため、メディアに真実を報道するよう働きかける」との発言があったと朝日新聞などが報じています。

 この部分だけでは事実に基づく報道を呼びかけた内容に思われますが、「世論の形成を国がリードする」と同じ文脈で述べており、「メディア規制」を要望したことと同じです。この発言に対し、メディアから批判の声が出なければ、『報道の自由』を語る資格はないと言わざるを得ないでしょう。

 

 中国共産党の宋濤・対外連絡部長が10日、北海道洞爺湖町であった日中与党交流協議会で講演し、日中関係発展の必要性を訴える文脈で、「メディアに真実を報道するよう働きかけて」などと、与党幹部にメディア規制を求めるかのような発言をした。

 マスコミが流す “フェイクニュース” が世界中で問題となっており、メディアに対して「真実を報道すべき」と要求することは発言主が政治家であったとしても、理解を得られることでしょう。

 ただ、ソン・タオ(宋濤)対外連絡部長の講演内容で問題なのは「この後に続く発言」です。この点に言及していない朝日新聞は中国共産党の顔色を伺っていると言わざるを得ません。

 

「世論の形成に国がリードしていく」という発言が問題

 ソン・タオ(宋濤)対外連絡部長の講演で問題視されるべき部分は産経新聞が報じた「メディアに真実を報道するよう働きかける。両国が客観的、理性的に相手の国を見るよう世論の形成に国がリードしていく」という部分です。

 この「世論の形成を国が主導する」という部分を実施しようとした場合、『メディア規制』は不可避です。該当部分をぼかした記事を書いた朝日新聞はこの点で不誠実と言えるでしょう。

  • 「言論の自由」に基づく理想的な世論の形成プロセス
    1. メディアが事実を報道する
    2. 読者や視聴者が(客観的・理性的に)判断を下す
    3. 『世論』が形成される
  • 中国共産党が求めるスタンス
    1. 国が『国内世論』の形成をリードする
    2. メディアに「真実」を報道するよう働きかける
    3. 読者や視聴者は「メディアが報じた “真実”」を基に『世論』を形成する

 「国が世論の形成をリードする」ということは「国にとって都合の良い世論が作られる」ということです。これを目標とする国が「メディアに “真実” を報道するよう働きかける」との発言をしたのですから、『メディア規制』を要求していることを同じです。

 この点を指摘し、批判できないメディアに『報道の自由』を語る資格はないと言わざるを得ないでしょう。

 

『報道の自由』はメディア批判への反論材料ではない

 メディアの姿勢で見苦しいのは『報道の自由』を自分たちが報じた内容に対する批判を受けた時に反論の材料として使うことです。

 誤報やデマを報じてしまった際、メディア(や執筆した記者など)は読者などから厳しい批判を受けます。近頃では公平中立の立場を語りながら、特定の政治的価値観に肩入れして情報量を意図的に調整する編集方針が槍玉にあげられています。

 「疑惑がある」と大々的に主張するも、疑惑の根拠を示さず、疑惑を払拭する証拠を小さく報じる報道姿勢は論外と言えるでしょう。こうした報道を行うメディアに疑惑をかけられた当事者や政治家が批判すると、『報道の自由』が脅かされたと文句を言っているのです。

 明らかに『報道の自由』を履き違えていると言えるでしょう。『報道の自由』とは「どのような報道をしても、報道の内容に対する責任を負う必要はない」という意味ではありません

 報道であれ、言論であれ、『自由』は存在します。ただ、『自由』を謳歌したいのであれば、『責任』を負わなければなりません。「報道内容」や「主張した論説」に間違いや事実誤認があれば、速やかに訂正・謝罪をする責任があります。

 「この責任からメディアだけが逃れようとするのであれば、『報道の自由』が制限されても文句は言えなくなってしまう」という現実をマスコミは直視する必要があると言えるでしょう。

 

 「『世論』を作るのは国民1人1人であり、我々メディアには国民に事実を正確に届ける責務がある。『世論』の形成をリードする思惑を持った国に配慮する気はない」と宣言してこそ、ジャーナリズムと言えるのではないでしょうか。