FA選手が不良債権化する中で選手が長期大型契約に固辞すれば、メジャーのFA市場が停滞するのは止むを得ない

 アメリカ・メジャーリーグの FA 市場が昨年に続き、停滞の傾向が強まっています。

 これは長期の大型契約を締結した選手が “不良債権” と化したことで身動きのできない球団が発生したため、同様の契約を締結することに二の足を踏むケースが相次いでいることが理由でしょう。その中で選手側は「前例を踏襲した長期の大型契約」を求めているのです。

 この認識のズレがメジャーの FA 戦線が停滞する大きな原因になっていると言えるでしょう。

 

長期の大型契約を締結した FA 選手が額面どおりの働きをしないと、球団は身動きが取れなくなる

 メジャーの球団が『長期大型契約』を敬遠するのは「選手の働きが不十分だった時の損失を吸収し切れないから」でしょう。

  • 高額年俸を負担する責務
  • コストパフォーマンスが悪い選手の引き取り先を見つけることは困難
  • 解雇することも難しく、解雇した場合は今後の選手補強に影響

 選手が額面に見合った活躍をしてくれていれば、何の問題もありません。チームが不振に陥って再建に乗り出すことになったとしても、「再建の旗手」と「複数の若手有望株選手」の選択肢があるからです。

 しかし、不良債権と化していれば、「契約満了を迎えるのを待つ」しか選択肢がない状況となるのです。これでは球団の身動きが取れなくなるのは当然と言えるでしょう。

 

大都市の人気球団でなければ、複数の選手に大型契約を提示することは難しい

 次に、球団ごとに「FA 戦線で長期・大型契約を提示可能な上限」が決まっています。大都市に本拠地を置く人気球団であれば、放映権料なども含めた潤沢な経営資金があります。

 ただし、この条件に合致するのはヤンキース・レッドソックス・カブス・ドジャースなど10球団にも満たないでしょう。

 これらの球団は長期大型契約を持つ 1〜2 選手が不良債権と化しても、耐えることができる可能性は高いです。しかし、地方都市に本拠地を置く球団はそれが致命傷となるのです。

 野球はチームスポーツですから、1人の FA 選手を中心にしたチーム作りはしないでしょう。FA での選手獲得は「最後の仕上げ」で効果を発揮するのであり、「チーム作り」の段階ではリスクが高すぎることです。

 なぜなら、直近の 5〜6 年で締結された長期の大型契約で額面に見合った活躍をしている選手は半分にも満たない水準だからです。それなら、「完全ウェーバー制で行われるドラフトで “全米屈指の若手選手” に賭ける方が合理的」と判断するのは当然と言えるでしょう。

 

落としどころは「前田健太投手が締結したインセンティブに重きを置いた契約形態」だが、それを飲む FA 選手がいないことが問題

 もちろん、冷え込む FA 市場の落としどころはあります。それは「前田健太選手がドジャースと締結したインセンティブに重きを置いた契約形態」です。

 基本年俸を低めに設定し、成績(= パフォーマンス)に連動したインセンティブで年俸総額が決まる形態であれば、球団側が難色を示すことはほとんどないでしょう。なぜなら、コストパフォーマンスに見合った支出になるからです。

 ただ、獲得できる年俸額を少しでも多くしたい選手側が難色を示すことでしょう。場合によっては FA となる前年度までに得ていた年俸よりも低くなってしまう懸念があるからです。

 「稼働状況の予測は付かないが、高給が約束されている」という状況は世間一般の感覚から外れたものなのです。選手会側の主張に共感する人は少ないと言えるでしょう。選手側が歩み寄りを見せない限り、FA 選手受難の時代が続くことになると言えるのではないでしょうか。

 

参考

2012年オフ

  • 投:ジャスティン・バーランダー(5年・1億4000万ドル)
  • 投:フェリックス・ヘルナンデス(7年・1億7500万ドル)
  • 外:ジョシュ・ハミルトン(5年・1億2500万ドル)
  • 外:B・J・アップトン(5年・7500万ドル)
2013年オフ

  • 投:ホーマー・ベイリー(6年・1億500万ドル)
  • 内:ロビンソン・カノ(10年・2億4000万ドル)
  • 内:ミゲル・カブレラ(8年・2億4800万ドル)
  • 内:ジョーイ・ボット(10年・2億2500万ドル) ※ 契約は2012年
  • 外:ジャコビー・エルズベリー(7年・1億5300万ドル)
  • 外:チュ・シンス(7年・1億3000万ドル)
2014年オフ

  • 投:クレイトン・カーショウ(7年・2億1500万ドル)
  • 投:マックス・シャーザー(7年・2億1000万ドル)
  • 投:ジョン・レスター(6年・1億5500万ドル)
  • 内:パブロ・サンドバル(5年・9500万ドル)
  • 外:ジャンカルロ・スタントン(13年・3億2500万ドル)
2015年オフ

  • 投:ザック・グリンキー(6年・2億650万ドル)
  • 投:デビッド・プライス(7年・2億1700万ドル)
  • 投:ジョーダン・ジマーマン(5年・1億1000万ドル)
  • 内:クリス・デービス(7年・1億6100万ドル)
  • 外:ジェイソン・ヘイワード(8年・1億8400万ドル)
2016年オフ

  • 投:アロルディス・チャップマン(5年・8600万ドル)
  • 投:ケンリー・ジャンセン(5年・8000万ドル)
  • 内:エドウィン・エンカーナシオン(3年・6000万ドル)
  • 外:ヨエニス・セスペデス(4年・1億1000万ドル)
2017年オフ

  • 投:ダルビッシュ有(6年・1億2600万ドル)
  • 投:ジェイク・アリエータ(3年・7500万ドル)
  • 内:エリック・ホズマー(8年・1億4400万ドル)
  • 指:J・D・マルティネス(5年・1億1000万ドル)