「海兵隊の抑止力は幻想」との我部政明教授の主張を紙面に掲載した朝日新聞、在日米軍司令部から「誤り」と指摘される

 朝日新聞が「アメリカ海兵隊の第31海兵遠征部隊(= 31MEU)の本拠地を沖縄に置く必要はない」と主張する記事を掲載していますが、その根拠として取り上げた我部政明・琉球大教授の主張をアメリカ軍から「誤り」と指摘される事態が起きています。

 言論的には『両論併記』を持ち出すことで朝日新聞は逃げるでしょうが、“運用面” での視点が抜け落ちた我部教授のロジックを持ち出す時点で「論客の力不足は否めない」と言わざるを得ないでしょう。

 

朝日新聞が掲載した我部教授の主張内容

 朝日新聞が取り上げた我部教授の主張は次のものです。

画像:我部教授の主張(朝日新聞より)
  • ローテーション制が採用され、沖縄を離れて長期訓練に従事
  • 日本近海での有事に 31MEU だけでの対処は不可能で、グアムやハワイから増援を受ける
  • 「抑止力になっている」というのはレトリック
  • 沖縄から離れる期間が多いのに、抑止力が問題にならないのはおかしい

 こうした理由を上げた我部教授は「(31MEU の)拠点は豪州北部のダーウィンや米領グアムであってもいい」と主張しているのです。

 ただ、いずれの主張内容も運用面が無視された “言いがかり” に過ぎず、このような主張を紙面に掲載することを見合わせるべきでしょう。なぜなら、簡単に論破されてしまうレベルのものだからです。

 

「『運用』に問題が生じないようにローテーションを組んで訓練を行う」ことは大前提

 “学者” の先生が『運用』を理解することは難しいでしょう。なぜなら、彼らは日常生活で “本業” を運用し続けなければならないという事態に遭遇しないからです。

 学会と授業の日程が重複すれば、授業を「休講」としてブッキングを回避するでしょう。ところが、世の中には「本業は絶対に止めれない」という業種が存在するのです。

 具体例を出せば、国防や公共インフラ(= 警察や消防、電気・ガス・水道など)です。

 こうした仕事ではローテーションが当たり前で、本業に就くグループがあれば、休息を得ているグループがあり、研修・訓練に励むグループがあるのです。「2勤制」や「3勤制」という言葉を聞いたことがあるなら、この点はすぐに理解できるでしょう。

 沖縄で今現在も実務に当たっている 31MEU のユニットが存在していれば、31MEU に属するの別ユニットが沖縄を離れて長期訓練に励んでいても何の問題もないのです。我部教授の主張は恥ずべき内容と言わざるを得ないでしょう。

 

エリック・スミス中将からの説明を理解できない朝日新聞

 朝日新聞の記事は在日米軍司令部から「間違いである」との指摘を受けています。

 間違いの根拠は「危機対応には距離が重要」との視点が抜け落ちていることです。これはマスコミが日常的に経験しているはずです。

 なぜなら、マスコミが “都市部の一等地” に本社を置いていることと理由が同じだからです。ニュースの現場に距離が近いほど、到着所要時間を短くすることが可能になります。つまり、それだけ速報性が高くなり、良い鮮度のニュース(= メディアにとっての成果・収益)を得ることになるのです。

 これと同じ論理で安全保障も行われており、それは朝日新聞の記事中でエリック・スミス中将が言及している内容です。

画像:スミス中将が朝日新聞に語った内容

 「(事態発生からの)即応時間を考えると、前方展開はとても重要」との発言に濃縮されていると言えるでしょう。ここを見落としているようでは取材する側の能力を疑わざるを得ないのです。

 

「自衛隊の災害派遣でも “増援” は発生する」という現実を認識できていないのではないか

 「 “増援” が前提となっており、拠点を置く意味がない」と主張するなら、その矛先は自衛隊や警察にも向けなければなりません。なぜなら、これらの組織も “増援” を前提にした運用形態だからです。

 これは全勢力を特定箇所や目的のために集結させることができないため、初動対応を行う部隊を各地に分散配備し、必要に応じて “増援” をすることで効率的かつ合理的に運用を行っているためです。

 自衛隊の災害派遣でも、最初に対応するのは要請があった地域の近くにいる部隊です。それでも対処が難しいと理由があると、増援という形で「追加支援」が行われることが一般的です。

 この方針を否定してしまうと横の連携が疎かになる上、コストに無駄が生じることになります。予算を無限大に使うことは不可能なのですから、合理的かつ効率的に使うことでコストパフォーマンスを良くする必要があります。

 これらの考え方は世間一般では当たり前のことで、一部の業界で働く人々しか知らないということはありません。むしろ、学者やメディア関係者が “世間知らず” の論調を平気で展開している方が驚きと言わざるを得ないでしょう。

 

 『両論併記』を悪用した無理筋な批判によって得られる効果を見つけることは困難です。肩入れ記事を平然と掲載するようではマスコミに対する信用度の低下に歯止めをかけることは難しいと言えるのではないでしょうか。