農水省が『豚コレラ』のワクチン接種可を決断、『洗浄国』認定を失うことによる “中長期的な弊害” への対策も必要な状況に

 「江藤拓・農林水産大臣が豚コレラのワクチン接種に踏み切る方針を決め、必要な手続きに入ると表明した」と NHK が報じました。

画像:会見する江藤拓農水大臣

 江藤農水相は9月11日に行われた内閣改造で初入閣をしました。それから10日も経たない内に『ワクチン接種』を可能にする環境を整える決断しています。

 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫問題では地元選出の議員として対応に奔走しており、畜産農家の要望を踏まえた対処が期待できる大臣と言えるでしょう。

 

 江藤農林水産大臣は、20日の閣議のあとの記者会見で、ブタの伝染病、豚コレラが先週、埼玉県で確認されるなど感染が広がっていることについて「われわれの予想を超える事態に直面し、13万頭以上の殺処分となり大いに責任を感じている」と述べ、豚コレラのワクチンの接種に踏み切る方針を決めたうえで、午後正式に表明する考えを明らかにしました。

 

ワクチン接種は “諸刃の剣”

 農林水産省が豚コレラのワクチン接種に消極だった理由は「メリットよりデメリットの方が大きかったから」でしょう。

 ワクチン接種によるメリットは「豚への豚コレラの感染を防げる」という点に尽きます。それによる殺処分される豚の頭数を激減させられるのですから、ワクチン接種を求める声が出るのです。

 一方でデメリットとしては以下の点があります。

  • 国際獣疫事務局(= OIE)の『洗浄国』認定から外れる
    • 『洗浄国』への輸出に逆風が吹く
    • 『非洗浄国』から「豚肉製品の輸入を拒む理由はない」との圧力が強まる
  • 豚肉の国内流通にも制限が出る

 デメリットは「豚肉製品の販路に制約がかかる」という点に集約されます。だから、農林水産省はワクチン接種を極力避ける形での対応を続けてきたという経緯があったのです。

 

江藤農水相は宮崎2区選出の衆院議員で、口蹄疫問題の対処に奔走した政治家

 豚コレラ問題で農林水産省が『ワクチン接種』に方針転換した要因の1つは「1週間前に就任した江藤拓・新大臣の存在」でしょう。

 江藤農水相は宮崎2区選出の衆院議員で、2010年に宮崎県で起きた口蹄疫問題では対処に奔走しています。当時の民主党政権の不味い対応で宮崎牛が壊滅的な打撃を受けた状況を目の当たりにしており、これが「方針転換」を指示する背景になったと考えられます。

 日本国内で成育されている豚は約900万頭ですが、備蓄されているワクチンは100万頭分です。江藤大臣は「(ワクチン生産能力を持つ)製薬会社に増産を依頼する」を述べていますが、全頭分が即座に用意されることは時間的に不可能です。

 そのため、「ワクチン接種をどの地域から行うか」などの調整を行い、汗をかくことが求められていると言えるでしょう。

 

「豚肉への風評被害に対する懸念」に対し、マスコミにも釘を刺せる大臣は評価したい

 豚コレラ問題でワクチン接種を可能にするよう手続きを開始したことに対し、マスコミが記者会見で風評についての質問しています。その質問に対して次のように回答しているのです。

記者: ワクチンの接種が地域限定かどうかに関わらず、風評被害というのは必ず出るかと思うんですけども、そのことについてはどうお考えでしょうか。


江藤大臣: 思い切ったことを言わせていただきたいと思います。御批判もあるかもしれませんが、私は今59歳です。日本はですね、2006年まで豚コレラのワクチンを接種しておりました。ですから私の人生の大半の時間は、ワクチンを接種した豚肉を食べて、成長して今、健康であります。

 ですから、ワクチンを接種するとですね、なんかその豚危なくなるんじゃないかという気持ちをですね、消費者の方々が持つのはこれは間違いですから。

 食品と安全性、それからお子さんに召し上がっていただいても成長になんら影響があるとかですね、そういうことはないと、いうことをメディアの方々にも御協力いただいて、分かっていただきたいと思います。

 2006年まで国産豚肉には豚コレラのワクチンが接種されていましたし、それを「危ないかも」と報じて不安を煽ることは風評を助長することと同じです。

 メディアが大騒ぎする前に「豚コレラのワクチン接種が人間の成長に何ら影響を与えることはない」と言及し、自制と正しい情報発信を促したことは農水大臣として情報発信の期待されている役割を果たしていると言えるでしょう。

 

 とは言え、野生のイノシシなどが『豚コレラのキャリア(= ウイルス保持者)』となっているため、「洗浄」には時間がかかることが予想されます。長期戦が確実視される中で「畜産農家の衛生管理意識」と「流通経路の確保」を継続させる取り組みができるのかが注目点と言えるのではないでしょうか。