トルコのエルドアン大統領、シリア難民などへの越境許可を匂わせて当事者意識が薄れた EU に圧力をかける

 AFP 通信によりますと、エルドアン大統領がトルコ国内にいる移民や難民などがヨーロッパに越境することを容認する発言を行ったとのことです。

 背景にあるのは「ヨーロッパ(≒ EU)への不信感」でしょう。ただ、トルコはロシアから兵器を購入したり、(ロシアが支援する)シリアと緊張関係が高まるなど立ち位置が定まっていないことも事実です。

 そのため、このタイミングで難民の欧州越境を匂わせるのは非常に厄介なことだと言わざるを得ないでしょう。

 

 トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領は2月29日、大勢の移民や難民がトルコ経由で欧州に越境することを容認する姿勢をにじませ、欧州連合(EU)に圧力をかけた。

 (中略)

 イスタンブール(Istanbul)での会見で、「きのうわれわれが取った措置は扉の開放だ」と述べた。その上で、2016年にトルコとEUが結んだ協定に言及しつつ「扉は閉鎖しない。EUが約束を守るべきだからだ」と明言した。この協定ではトルコが難民越境を抑制する見返りに、EUが数十億ユーロ規模の支援を実施することになっている。トルコはすでに360万人のシリア難民を受け入れている。

 

トルコには身銭を切って移民や難民を保護する価値はない

 まず、トルコには移民や難民を国内で保護する責務はありません。移民や難民はアフガニスタンやシリアなどの出身者であり、アメリカやヨーロッパ諸国による多国籍軍の戦闘行為が発端です。

 トルコはそれによって生じた難民の保護を押し付けられているのです。

 身銭を切ってまで国外から流入した移民や難民の世話をすることは馬鹿げています。人道的支援を理由にしても限度があります。自国民を後回しにして外国人の保護に尽力すれば、国民からの不満が大きくなるでしょう。

 したがって、移民や難民がトルコに押し寄せる原因を作った EU に不要負担を求めるのはトルコ政府として当然のことです。また、ヨーロッパ行きを希望する移民や難民を国内に留めておくメリットはトルコにはないのです。

 難民保護の費用を欧州に要求するトルコ政府の姿勢は理解できるものと言えるでしょう。

 

“欧州が危険視するロシアに接近するトルコ” を全面的に支持できない EU 側の事情も理解できる

 一方でトルコのエルドアン大統領が採っている政策に EU 側が全面的に支持できない事情があることも事実です。

  • シリア騒乱に越境して介入
  • ロシアから兵器を購入

 まず、EU などの多国籍軍が “撤退した後” にシリア国内に兵力を越境させており、この判断に理解を示すことは「NATO による同盟関係にある状況でも簡単ではない」と言わざるを得ません。

 なぜなら、トルコは NATO が危険視しているロシアから『防空システム』を購入しています。本来であれば、“同じ NATO 加盟国” であるアメリカや EU の兵器を装備すべきでしょう。しかし、それをせずに(仮想敵国である)ロシアに接近したのです。

 この状況でトルコを全面的に信頼するのは不可能です。NATO の存在を軽視してイランに接近したアメリカのオバマ前大統領と同じことをしているのですから、同盟国である EU から不信感を抱かれるのは当然です。

 その結果、トルコへの難民支援金の拠出に消極的になることはある意味で止むを得ない部分があると言えるはずです。

 

『(難民の)越境容認を示唆』というカードを切ったタイミングは外交的に憎らしいほど的確

 トルコ政府が “いいとこ取り” を狙った外交政策を採っていることは否定のしようがない事実でしょう。この方針は韓国政府のコウモリ外交と同じですが、「周辺国に与える影響力」という点で大きく異なります。

 韓国は「『アメリカ(と日本)』と『中国』のバランサー」を自認し、双方から最大の利益を引き出すことを狙って動いています。ただ、双方の陣営から「裏切り者」と看破されたため、立場が極めて悪くなっている状況にあります。

 トルコのエルドアン大統領がやっている方針も基本的には韓国と同じです。しかし、「国内に留まっているシリアおよびアフガニスタン難民」という『強烈なカード』を持っていることが韓国とは決定的に異なります。

 なぜなら、トルコは「(EU 本部がある)ブリュッセルで難民の面倒を見ろ」という “実力行使” に出られるからです。これをやられると EU は甚大な影響を受けるため、トルコを無下にすることはできません。

 イタリア北部で新型コロナウイルスが蔓延する最中に “実力行使” を匂わせたのですから、EU にとっては厄介以外の何者でもないと言わざるを得ないでしょう。

 

 強烈な揺さぶりを仕掛けて来たトルコに対し、シリア問題の当事者である EU の対応次第では事態は混乱化することは避けられません。厄介事を押し付けていた案件が最も面倒なタイミングで責任が押し返さつつあるだけに混乱が大きくなる可能性があると言えるのではないでしょうか。