外交の元トップがハーグ仲裁裁判所の示す判断を「紙くず」と無視する意図を持った国が身近にあることを自覚すべきだ

 中国の外交部門でトップを務めた戴秉国(ダイ・ビングオ)元国務委員が南シナ海の領有権問題による申し立てで仲裁に対し、12日に示される判断は “紙くず” と批判していると日経新聞が伝えています。

 

 中国の戴秉国・元国務委員は米ワシントンで5日講演し、フィリピンが南シナ海の領有権問題を巡り国連海洋法条約に基づき申し立てた仲裁手続きで、仲裁裁判所が12日に示す判断は「ただの紙くずだ」と批判、中国は受け入れないとの姿勢を強調した。中国外務省が6日までに講演内容を公表した。

 

 外交の元トップが発言したことが問題なのではありません。発言内容を中国外務省が交渉したことが問題なのです。

 オランダ・ハーグで行われている仲裁裁判は参議院選挙が終わった2日後の7月12日に判断が示される予定です。「南シナ海のほぼ全域が自国の領有権である」とする中国の主張は認められず、中国にとって厳しい判断が出ることが予想されています。

 そのことを受け、戴秉国(ダイ・ビングオ)元国務委員は「(判断は)ただの紙くず」と批判し、それを中国外務省が公表したのです。

 

 中国外務省の姿勢は「戴秉国(ダイ・ビングオ)元国務委員と同じである」と暗に示唆しています。国際規約を守ろうとせず、仲裁裁判の判決を「紙くず」と述べ、無視しようとしているのです。

 そのような姿勢を見せる国と信頼関係を築くことは不可能です。複数国が関係する条約を無視するような国が1国との条約を守るとは到底言えないからです。「軍事力を背景に南シナ海を支配下にしようとする中国にどう対応するのか」を現実的に採ることができる選択肢から検討しなければなりません。

 例えば、「憲法9条の変更は認めない」と護憲派は常日頃から主張していますが、中国は「ただの紙くずだ」と批判し、日本国憲法の効力自体を停止させることも否定できません。また、基本的人権が無視されたり、日中間で締結している国際条約も “紙くず” と主張し、反古にすることも十分に考えられます。

 「そんなことは起こりえない」と主張するようであれば、“お花畑” と揶揄されることになるでしょう。

 

 「中国が自国のものと主張すれば、それを認めるべき」という意見なら、そう主張すべきです。その見解に賛同できないなら、軍事力を背景に膨張を続ける中国への対抗策を明示しなければなりません。

 「自分たちが攻撃の危機にさらされている時は守って欲しいが、自分たちは巻き込まれるのが嫌だから中立の姿勢を貫く」という姿勢は身勝手なものだと自覚する必要があります。

 この現実を軽視していると、困った時に手を差し伸べてくれる国がいなくなる恐れがあることを頭の片隅に置いておくべきと言えるのではないでしょうか。