ホクレン酪農部部長が「バター不足の状況を意図的に作り出して儲けている」と語り、安倍政権の農協改革を後押し

 アメリカがTPP交渉から撤退することが現実味を帯びている状況で、安倍政権によるJA全農の抜本的な改革もペースが落ちた状況になりつつあるとNHKが報じています。

 改革の期限が撤廃され、年次計画となったことで農協側が有利となる状況が整いました。しかし、風向きが急変しそうな新たな火種も生じています。

 

 提言案では、JA全農が行っている農家から手数料を取る形での農産物の委託販売を、1年以内に廃止することなどが盛り込まれ、JAグループから強い反発が出ていました。

 会合では、改革はあくまでJA全農がみずからの判断で行うこととし、委託販売の廃止まで1年以内とされていた期限は取りやめるかわりに、数値目標を盛り込んだ年次計画の策定を求めるなどの方向性で一致しました。

 

 農業は日本では「儲かる職業」であるという認識はありません。その大きな理由は農家が作物を育成する上でのリスクを一手に引き受けた上、農協に対して様々な “手数料” を収める必要があるからです。

 この条件下で、能力を持った有能な人材が農業に身を投じようと決断することはないでしょう。

 

 農家の所得を増加させるには以下の2つを実現する必要があります。ただし、実現については反対する勢力も存在しているのです。

  • 収入額を増やす
    • 単価の高い作物を栽培する
    • 遺伝子組み替え作物を導入する
      → 収穫量や効率増が目的
  • コストを減らす
    • 作業の機械化を推進する
    • 農業用肥料の価格を下げる
    • 農協などへの手数料をなくす

 農家が「農業には経営的視線が不可欠」という意識があれば、上記のような項目が改革案になるでしょう。ですが、強硬な反対勢力がいることは周知の事実です。

 収穫量や収穫効率を格段に高める遺伝子組み換え作物はマスコミが「危険だ」と宣伝し、取り組むにはネガティブな印象が強く根付いています。また、農協など “独占的な取引立場が認められた存在” による手数料という形でのコストも重荷になっている実態を解消しなければなりません。

 

 しかし、農家の収入状況は一般家庭には関係のないことと思われており、農協などに世間の矛先が向かうことはまず起きないでしょう。ところが、11月22日に放送された『ガイアの夜明け』でホクレンの酪農部部長が墓穴を掘ってしまった状況に陥ってしまいました。

 ホクレンは “指定団体” であり、農家から生乳を独占的に確保できる立場にあります。その上で、意図的に生乳をバター用途に振り分けないことでバターの価格が高騰すれば、(ホクレンの)業績が上がるテレビで語ったのです。

 一連の発言は農協改革を推進中の安倍政権に対する絶好の後押しとなることでしょう。農家に対して独占的な立場から生乳を買い叩く一方で、一般消費者には意図的に高値で売りつけていることが明るみに出たからです。

 私腹を肥やすだけの指定団体を野放しにしておく理由はどこになるのでしょうか。コンプライアンス的にも問題のある発言を平然と行う団体をかばうメリットを見出す方が難しいことです。

 

 援護射撃をするのは安倍政権の方針に反対することがモットーの民進党ぐらいだと思われます。ですが、“利権の塊” と化している現状が強い農協を守る姿勢を鮮明に示したとしても、一般への支持は広がらないでしょう。

 農協は「選挙で自民党候補を落とせるだけの力を持つ」と見ることもできますが、民進党支持を明確に打ち出すことはリスクが高すぎるでしょう。予算の目処も立てることができず、バラマキだけを声高に訴える政党が政権与党として長続きする見込みは低く、その恩恵を受けようとしていた業界団体が将来的に吊るし上げに遭う危険性が高まるからです。

 仲介業者だけが特権的な立場を活かした手数料収入で潤っている状況が容認され続けるのは現代では難しくなったことを自覚する必要があります。

 農家を守るという名目で高額な関税をかける必要はありませんし、外資系の生産者を受け入れることも有力な解決策の1つです。大事なことは安全な食品が生産され、消費者に届けられることなのです。

 

 「外資系に不安を覚える」という人は雪印事件を思い出してみると良いでしょう。国内企業であれ、外資系企業であれ、不正に手を染める組織は存在するのです。

 異様な保護政策が取られている業界ほど組織の腐敗進行度は速く、組織外のすべての人々にとって悪影響を及ぼす原因であることを知っておかなければならないことと言えるのではないでしょうか。