「コンクリートから人へ」ではなく、「公共事業と人へ」のバランスが求められている

 民主党政権時に「コンクリートから人へ」のスローガンを称賛したため、公共事業が “悪者” として扱われました。

 しかし、ここに来て老朽化が深刻になっていることが調査で明らかとなり、通行禁止になる橋も多く確認されており、住民の生活に支障が出ていると『読売新聞』が報じています。

 人に投資しても、社会インフラが崩壊しては意味がありません。予算配分を見直す必要性が高くなっていると言えるでしょう。

 

 2016年3月までに点検を終えた20万4533基のうち、早急な補修などが必要と判定された橋は12%の2万4351基に上る。高度成長期に造られた多くの橋が、補修や架け替えの時期を迎えており、「通れない橋」が住民生活に影響を及ぼしている。

 

 読売新聞が報じた「早急な補修などが必要とされた橋の数」を表で示すと、以下のようになります。

表1:早急な補修などが必要とされた橋の数
管理者レベル3レベル4
1,310 3
都道府県・政令市 7,647 16
市町村 14,449 231
高速道路会社 695 0
合計 24,101 250

 建造物が老朽化することは自然なことです。安全に長く利用するにはメンテナンスなどの補修が欠かせまんし、それでも寿命が来たのであれば、架け替えなど再建設を検討する必要があります

 特に、日本の道路網は高度経済成長期に造られたものが多いため、「補修」か「架け替え」の決断をする時期に差し掛かっていると言えるでしょう。

 

 ところが、足かせとなっているのは民主党(現・民進党)政権時代にメディアが称賛した「コンクリートから人へ」というスタンスです。

 これによって、公共事業が “悪者” として叩かれ、必要不可欠な事業ですら実行に移せない土壌が作り出されてしまいました。それにより、耐久性が安全基準を満たさず、通行禁止になる橋やトンネルが全国で多数確認されることになるでしょう。

 ただ、過疎が進行する地域でどれだけ生活に支障が出たとしても、架け替え工事に対する予算が計上されることはないと思われます。

 優先度は緊急支援用に指定されている道路にある橋やトンネルが高いですし、利用頻度が低い地域に豪華な道路を作りすぎた “過去の弊害” を繰り返すことはマスコミが攻撃する格好のネタになるからです。

 「弱者の味方」を名乗るメディアも自分たちが過去に叩いた “道路建設” が行われなくて困っている人がいると寄り添うことはできないでしょう。マッチポンプだと大きな批判にさらされることが考えられるからです。したがって、見捨てられる可能性が現実的には高いと言えるでしょう。

 

 順序としては、「基幹ルートとなる幹線道路上の橋やトンネルの補修は優先順位を付け、補修・架け替え工事は公共事業として実施する」ということが容認されることが最初です。これができなければ、老朽化の影響によって社会生活が不便になるでしょう。

 熊本県や大分県で発生した地震による道路の補修工事の入札が不調に終わり、道路がガタガタのままというニュースがありましたが、このような不便さが全国で起きることが想定されるのです。

 この状況に対し、「人への投資は拡充されているのだから、文句を言うな」と一括できれば問題とはならないのですが、そのような論説を展開する政治家・政党・マスコミはいないでしょう。

 誰もが利用する公共物である道路メンテナンスへの予算計上は人への投資と同じぐらい大事なものなのです。

 

 補修工事で誤魔化し、地震で崩壊した橋・トンネルだけを新たに建設するという選択肢もありますが、現実的には選択できないでしょう。

 なぜなら、公共事業費をケチったことで人的被害が生じた場合の損失をカバーできないからです。被害を受けた人に対して「運が悪かった」と言い訳はできませんし、「公共事業は不要」と論陣を張った政党やメディアは大炎上することになるでしょう。

 ネット社会ですから、「老朽化が進む道路・橋・トンネル等に対する姿勢」がどのようなものだったかは克明に記録されていることでしょう。理論武装をせず、その場しのぎの主張をすることはリスクのある行為であることを理解しておく必要があると言えるのではないでしょうか。