Jアラートの受け手である市民が困惑するのはマスコミが説明する報道を怠っているからだ

 8月29日の早朝に北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、北海道の上空を通過した後、太平洋上にミサイルが落下するという事態が発生しました。この際、Jアラートがなったのですが、受け手が困惑していると朝日新聞が伝えています。

 しかし、この主張は明らかな責任転嫁です。なぜなら、政府は対応策を発表しており、それを受け手である国民に伝え、理解させる責務はマスコミが担っているからです。

 

 タクシー運転手の川越義美さん(67)は、Jアラートが鳴っても「ミサイルが落ちてくることはないだろう」と静観していた。だが、10~15分後から県庁職員が次々と自家用車やタクシーで県庁に乗り付け始め、「やばいのかなと思った」。地下への避難を求められても、「青森に地下なんてほとんどない。どこに逃げたらいいのか」と困っていた。

 

 タクシー運転手をしている一般人がJアラートがなった際の対応を知らなかったとしても、現時点では問題ありません。なぜなら、マスコミは対応策を取り上げることに消極的ですし、“場合分け” まできちんとできている人は少数派だと考えられるからです。

 しかし、マスコミが「Jアラートで受け手が困惑している」と批判するのはお門違いです。

 なぜなら、マスコミには「Jアラートが鳴ってからの数分間で、受け手はどのように行動すべきか」ということを伝えたり、解説・説明をする責務があるからです。それを放棄しているなら、特権として認められた立場を剥奪すべきと言えるでしょう。

 

1:政府(内閣官房)が発表している避難方法

 弾道ミサイル落下時の行動については内閣官房の『国民保護ポータルサイト』で「Jアラートが流れた際にとるべき対応」が紹介されています。これをマスコミが「知らない」とは口が裂けても言えないはずです。

画像:弾道ミサイル落下時の避難行動
  • 屋外にいる場合
    • できる限り頑丈な建物や地下に避難する
      (地下:地下街や地下駅舎など地下施設)
  • 建物がない場合
    • 物陰に身を隠す
    • 地面に伏せて頭部を守る
  • 屋内にいる場合
    • 窓から離れる
    • 窓のない部屋に移動する

 上述のように、状況に応じた対応策が例示されているのです。優先順位を付けることができる訳ですから、具体的な対応策を読者に伝えきれていなかった現実をマスコミは反省する必要があると言えるでしょう。

 

2:青森県のタクシー運転手・川越義美さんはどのような避難対応をするべきだったのか

 では、朝日新聞に取り上げられた青森県のタクシー運転手・川越義美さんのケースで、Jアラートが鳴った際の避難対応を考えてみることにしましょう。「川越さんが青森県内をタクシーで走行中(空車)にJアラートを受信した」という想定にします。

 この場合、川越さんが採るべき避難対応は以下のとおりです。

  1. 屋外にいるため、「頑丈な建物」か「地下」が避難先候補
  2. 地下街が青森には少ないため、「頑丈な建物」が避難先に決定
    • タクシーを停車し、“頑丈な建物内” に避難
    • 周囲に頑丈な建物がない場合、タクシーを停車し、物陰に身を隠す

 タクシー運転手として勤務をしている際は上記の優先順位で避難行動を採るべきと推奨されています。地下街に避難できれば理想的ですが、場所的に難しい場合もあります。

 その際は “頑丈な建物” に避難すべきですが、 “頑丈な建物” がどこなのか見当が付かないことが問題です。これは「頑丈な建物=銀行」と覚えておくと良いでしょう。

 大金を扱う銀行は強固な建物になっています。地震などの衝撃で建物に(人が侵入できるほどの)穴ができれば、「盗んでください」と言っていることと同じであり、それを防ぐために頑丈な造りなっていると言えるからです。

 

 しかし、早朝などの時間帯は銀行に入ることは不可能です。その場合は走行中の車両を止め、道路沿いの物陰に身を隠すことが重要になります。

画像:イスラエル・テルアビブで避難行動を採る人々

 イスラエル・テルアビブでは上図のようにロケット弾に対する避難行動を採っているのです。命を守るための行動をバカにされる筋合いはないと言えるでしょう。

 

3:被害を軽減するための時間があることを警報は知らせている

 Jアラートという警報を聞いた際にどう行動するかは個人の自由です。確かに、ミサイルの直撃を受ければ、どうしようもありません。しかし、直撃でなければ、適切な避難行動で被害を最小限にすることはできるのです。

 マスコミは『先の大戦』での “語り部” を重宝していますが、「ブロック塀の影で助かった」、「たまたま地下室にいた」、「物を拾おうとして偶然かかんだから自分だけ助かった」という原爆生存者のエピソードから何も学習していないようです。

 警報が鳴ったら、その時点で最善の避難行動を採れるような冷静さを培っておく。これが重要なことであり、東日本大震災の教訓でもあると言えるでしょう。

 「ミサイルを発射させないための外交努力」という主張は国民の生命に対する責任を負う立場にない無責任な人々の理想に過ぎません。生命を守るために必要不可欠な情報を伝えることに無関心なマスコミの姿勢は厳しく糾弾されるべきものと言えるのではないでしょうか。