ドイツで連立交渉が予想通り暗礁に乗り上げ、“政治の空白” が発生

 “政治の空白” はどの国でも生じることがありますが、日本では選挙後に生じるケースは滅多にありません。

 しかし、ヨーロッパでは比較的起きていることです。9月に議会選挙が行われたドイツでは連立交渉が上手く行かず、政権発足が年明けにまで遅れる可能性もあると NHK が報じているからです。

 

 ドイツのメルケル首相は先月の議会選挙の結果を受けて、2つの少数政党と4期目の政権の発足に向けた連立協議を始めましたが、難民や環境などをめぐる政策で立場が異なることから、交渉は長期化するという見方が出ています。

 (中略)

 初日の協議について、いずれの党の幹部も「建設的な雰囲気の中で議論ができた」と評価しました。しかし、3党は難民や移民の受け入れや環境政策などをめぐって立場が異なることから交渉が難航し、政権の発足は来年にずれ込むのではないかという見方も出ています。

 

 選挙後に政権発足が上手く行かない国に共通する点は比例選挙で選出される議員の割合が高いことです。

 比例選挙で議席が決まる場合、小政党の乱立を招きます。

 それを防ぐために阻止条項(所定の得票率を超えなかった場合は議席を配分しない)というルールがあるのですが、阻止条項をギリギリ突破する政党がキャスティングボードを握るという “多数決とは異なる民主主義” が繰り広げられる理由になってしまっているのです。

 

1:ドイツ議会の現状

 9月に行われたドイツ連邦議会選挙後に大連立を組んでいた社会民主党が連立解消を発表いたしました。そのため、メルケル首相は新たなパートナーをする必要に迫られたのです。

画像:ドイツ議会での連立交渉の状況

 現状は “腹の探り合い” が行われたに過ぎないと予想されます。各政党ともに連立の条件を提示し、交渉が始まっただけと表現することもできます。

 ここから、譲歩を引き出し、上手く着地点を見つけられるかがポイントと言えるでしょう。

 

2:連立政権が発足しなくて困るのはメルケル首相が率いる CDU だけ

 日本やイギリスのように小選挙区に比重が置かれている国の場合、「選挙後の連立発足」が原因で政治の空白が発生することはないでしょう。なぜなら、選挙が行われる前の段階で事前に陣営の構図が固まっているからです。

 しかし、比例選挙に重きがある場合は異なります。

 それぞれの政党が自らの主張を展開するため、選挙後に協力体制を模索する必要があるからです。「有権者から支持を得た政策を撤回することはできない」と主張しなければ、次の選挙で投票してもらえなくなるため、どの政党も “肝” に該当する部分の政策は簡単には引き下げられません。

 また、連立相手に譲歩すると、支持者離れを引き起こす大きな原因となることは大連立を組んでいた政党が共に議席数を減らしたことからも明らかなのです。したがって、メルケル首相に議席を “プレゼント” する理由はなく、足元を見る政党が出てくることになるでしょう。

 

3:議会第1党以外は責任が少ないだけに “我慢比べ” で有利となる

 連立交渉の行方ですが、「どの政党が最初に譲歩するか」という点で “我慢比べ” が発生することが濃厚です。

 左派色の強い政党ほど、政府の財政出動を要求します。しかし、メルケル首相が率いる CDU は財政出動に消極的ですし、自由主義経済を掲げるドイツ・自由民主党も反対の立ち位置を採ることでしょう。

 一方で CDU の姉妹政党である CSU は難民問題に厳しい姿勢を要求しています。これは AfD に支持者が流れたことを強く懸念した結果であり、メルケル首相が左派に寄り添う姿勢を強めれば、「連立のパートナー」という立場になることも辞さないという姿勢を見せています。

 連立交渉が不調に終わった場合、議会第1党の CDU 以外には『支持者や第三者に対する真っ当な言い訳』が存在します。「選挙で掲げた最重要視する政策を変更することはできない」と堂々と主張すれば、批判を受けずに済む可能性が高いからです。

 逆に、連立交渉をまとめなければならないメルケル首相は厳しい立場に置かれていると言えるでしょう。

 

 大連立を組むことでメルケル首相は3期目を務めました。ただ、大連立の相手の社会民主党が議席を減らしており、「連立に不参加」を表明しています。

 連立交渉を行っている政党も、「選挙で掲げた政策が実現されなければ、次回選挙で議席を大きく減らす」という現実を目の当たりにしているだけに、非常にシビアな連立の条件を提示することでしょう。メルケル首相が “政治の空白” を解消するための政党間交渉力を持っているかが焦点と言えるのではないでしょうか。