ドイツ・メルケル首相、大連立存続に政権維持の望みを託す

 ドイツでは総選挙から3ヶ月が経とうとしていますが、まだ政権発足には至っていません。

 NHK によりますと、メルケル首相がシュタインマイアー大統領の要請を受けた『社会民主党(SPD)』のシュルツ党首と大連立に向けた会談を行ったとのことです。ただ、『社民党(SPD)』内には「大連立反対」の意見もあるため、先行きは不透明なままと言えるでしょう。

 

 シュルツ党首は、9月の選挙で歴史的大敗をしたのを受けて、2013年からキリスト教民主・社会同盟と組んできた連立政権を解消し、野党第1党として党の立て直しに取り組む考えを示していましたが、大統領から説得を受けてメルケル首相との会談に応じました。

 社会民主党は来週開かれる党大会で連立交渉に入るかどうか議論することにしていますが、党内には連立入りに反対する意見もあり、先行きは不透明です。

 

 9月に行われた総選挙では大連立を組んでいた『キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)』と『社会民主党(SPD)』がそろって議席数を落としました。

 大連立によって、政党の “独自色” が出せなくなったことが議席数を減らした理由なのですが、その反省をどれだけ踏まえているかが問われることになると言えるでしょう。

 

1:現状の整理

 ドイツ議会の連立交渉をめぐる現状は下図のとおりです。

画像:ドイツ連邦議会の連立交渉の行方

 『キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)』は「『ドイツのための選択肢(AfD)』とは組まない」と明言しています。

 そのため、『自由民主党(FDP)』が連立交渉から離脱した現状では『社会民主党(SPD)』との大連立を存続させるしか選択肢は残されていないことになるのです。

 

2:社会民主党(SPD)は動くに動けない状況

 メルケル首相や SPD 出身のシュタインマイアー大統領が秋風を送る『社会民主党(SPD)』ですが、12月7日から党大会を控えています。

 大連立を組んだ結果、議席数を大きく落とした総括は必要であることは明らかです。世論や党内部に「大連立存続派」がいる一方、党青年部は「大連立拒否」を要求している状況です。

 青年部は『社会民主党(SPD)』の一員として過ごす期間が今後最も長い当事者です。そのため、“その場しのぎ” の対応に強く反発することは当然です。

 世論は自分たちのニーズを満たしてくれる政党であれば、『社会民主党(SPD)』でなくても良いのです。『緑の党』がやってくれるなら、マスコミが熱烈支援している左派政党を支持することでしょう。したがって、『社会民主党(SPD)』青年部が譲歩を認めない理由は真っ当なものだと言えるのです。

 

3:大連立が存続した場合の勝者と敗者

 大連立が存続することになれば、「求心力を失った指導者同士が保身に走った」と見られることでしょう。そのため、勝者と敗者は次回の議会選挙でより鮮明になるはずです。

  • 勝者候補
    • 『緑の党』:SPD に愛想を尽かした支持層の受け皿
    • 『自由民主党(FDP)』:CDU/CSU に不満を持つ支持層の受け皿(経済政策優先)
    • 『ドイツのための選択肢(AfD)』:難民問題対策優先
  • 敗者候補
    • 『キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)』
    • 『社会民主党(SPD)』

 CDU/CSU と SPD はどちらも大連立を存続させることで、総選挙で掲げた自党の政策を(ある程度は)反故にするのです。そのため、支持者離れを引き起こすでしょう。

 「党勢を盛り返すこと」が課題である中、大連立を組んだ時点でそれを怠ることになります。また、総選挙で掲げた公約を破棄・撤回することになる訳ですから、党勢は落ち込むことになると予想されます。

 それにより、連立を組まなかった政党が「筋を通した」との理由で “受け皿” となり、議席数を伸ばすことになると思われます。

 

 絶対数は『難民受け入れ反対』が多いのですが、「AfD と連立を組まない」と宣言したことが混乱のきっかけとなっています。この現実をドイツの政治家やメディアが受け入れ、世論のニーズに沿った政策を実行できるかがポイントになると言えるのではないでしょうか。