オーストリアの大連立政権にピリオド、難民・移民に対して厳しい右派政権が発足

 10月にオーストリアで行われた議会選挙で難民や移民に厳しい姿勢を打ち出した政党が躍進し、それらの政党による連立政権が発足したと NHK が伝えています。

 難民・移民の受け入れを求める EU との姿勢とは逆の立ち位置であることから、メディアは批判的な論調を述べることでしょう。ただ、選挙結果は残酷なまでに “リベラルの欺瞞” を白日の下にさらしています。

 

 オーストリアではことし10月に議会選挙が行われ、難民や移民の受け入れの厳格化を求める中道右派の国民党が第一党となり、ナチスの元党員が設立した極右政党・自由党も議席を大きく伸ばして第3党になりました。

 国民党のクルツ党首は16日、自由党のシュトラッヘ党首とともに記者会見し、両党で連立政権を組むことで合意し、国家元首である大統領に報告して承認を求めたと発表しました。

 (中略)

 地元のメディアは、新たな政権では、難民・移民政策を管轄する内相をはじめ、外相や国防相のポストも自由党が獲得するとの見通しを伝えていて、EUに批判的な政権が誕生するとの見方が強まっています。

 

 

1:伝統的に左派が強いオーストリア

 オーストリアの特筆事項として「伝統的に左派が強い」という点があります。ウィーンが “赤い首都” と戦前に揶揄されるほどですので、筋金入りと言えるでしょう。

 また、ヒトラーがオーストリア出身であることは少なからず影響を及ぼしていると考えられます。

 『ナチス・ドイツ』のイメージが真っ先に浮かぶヒトラーですが、オーストリアで生まれ育っています。「歴史上で最もタブー視されているのがヒトラー」という現状がある訳ですから、保守系の政党ですから厳しい環境を強いられて来た土壌があると見ておく必要があると思われます。

 

2:中道左派の与党が動けない状況で難民問題が押し寄せた

 マスコミの報道では「 “極右” の自由党が躍進し、政権入りをした」との印象がありますが、これは少し違います。なぜなら、今回の国民議会選挙を前に与党(第1党)の社民党は動きがとれない状況だったからです。

表1:オーストリア・国民議会の選挙結果
  2017年 2013年
社民党
(左派)
52議席
(得票率:26.9%)
52議席
(得票率:26.82%)
国民党
(中道右派)
62議席
(得票率:31.5%)
47議席
(得票率:23.99%)
自由党
(右派)
51議席
(得票率:26.0%)
40議席
(得票率:20.51%)
緑の党
(左派)
0議席
(得票率:3.8%)
24議席
(得票率:12.42%)
ネオス
(左派)
10議席
(得票率:5.3%)
9議席
(得票率:4.96%)

 オーストリア国民議会の過半数は92議席。第1党の社民党だけでは届かない数字だったため、過去2回の選挙後は中道右派の国民党と大連立を組んでいたのです。

 この点がドイツなどとは異なる点と言えるでしょう。大連立を組んだことで政党の支持者が募らせ、議席を減らし続ける中で移民・難民問題が降りかかることになりました。

 その結果、難民や移民に厳しい姿勢を打ち出した政党は得票率でそれぞれ 5% を上乗せしたのです。もし、オーストリアの有権者が「難民や移民の受け入れに寛容」であるなら、逆の結果が示されたことでしょう。比例選挙で行われたのですから、投票結果こそ民意なのです。

 

3:前回選挙で第1党だった中道左派・社民党と “極右” 自由党の獲得議席数が肉薄という現実

 国民党と自由党の連立政権が発足したオーストリアですが、「EU に批判的な政権になる」との理由でデモ活動が行われたと報じられています。

 これは表向きの理由で実態は「マスコミが “極右” と報じる政党が政権入りしたことに反対」という左派の運動でしょう。左系で最も議席数を獲得したのはこれまで第1党の立場にあった社民党の52議席。対する自由党は51議席を獲得し、前回の選挙に続いて第3党の立場を確保したのです。

 得票率では “中道左派の筆頭政党” と “極右政党” の差は 1% にも満たないものです。「民意とかけ離れている」とリベラル界隈が主張するほど、「選挙結果による議席数」という現実を突きつけられ、活動が先鋭化する流れが強くなることでしょう。

 政府が有権者のニーズに適切な政策を打ち出し、実行しなかったから、選挙結果という形で灸が据えられたのです。民意に文句を言っているようでは党勢が回復する兆しを掴むことはできないと考えられます。

 

 オーストリアで発足した新政権は「治安回復」に加え、「経済成長で結果が残せるか」が次回選挙での判断材料となるでしょう。周辺国は難民・移民への予算配分が大きくなっていることが予想されるため、独自路線の有効性を証明できるかが鍵となるからです。

 オーストリアの隣国ドイツでは大連立でメルケル首相の指導力に陰りが深刻化しています。そうした観点からも、オーストリア政治がヨーロッパにどういった影響を及ぼすかを見ておく必要があると言えるのではないでしょうか。