韓国が「アメリカと北朝鮮が5月までに首脳会談を行う」と発表も、信憑性と実現性に疑問を残す

 韓国ムン・ジェイン大統領の特使として北朝鮮を訪問していた一行がアメリカのトランプ大統領と面会し、「北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が会談の意欲を示している」と伝えたと NHK が報じています。

画像:ホワイトハウスで会見する韓国の特使

 メディアは「首脳会議が実現へ」と述べていますが、信憑性や実現性という点で疑問が残る状態と言えるでしょう。なぜなら、現状では裏付けなどが極めて乏しい状況だからです。

 

 北朝鮮でキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と会談した韓国政府の高官はアメリカのホワイトハウスでトランプ大統領と面会し、キム・ジョンウン委員長がトランプ大統領との首脳会談の開催を提案していると伝えたことを明らかにしました。トランプ大統領は完全な非核化を実現するために5月までにキム委員長と会談する意向を示したということです。

 発表を行ったのは「韓国の特使」であり、内容は「キム・ジョンウン委員長がトランプ大統領との会談に意欲を示している」というものです。

 これだけでは後になって、言った・言ってないの “水掛け論” になる可能性があります。それを防ぐために『親書』で発言を裏付けるのですが、今回はそのようなエビデンスが示されたとの報道は現時点では見当たりません。そのため、信憑性と実現性に疑問符が付いている状況と言えるでしょう。

 

1:「日本が北朝鮮問題で孤立する」との意見に潜む罠

 トランプ大統領が『対話』の可能性を述べたことで、「日本が北朝鮮問題で孤立する」との見解を述べるメディアが出ています。ですが、この意見は “煽り” に過ぎません。

 なぜなら、トランプ大統領は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と言及していたからです。『先制攻撃』、『圧力強化』、『対話』、はいずれも選択肢の1つです。

  • 北朝鮮が以下に示す反応をした場合、どう対処するか
    1. 特筆すべき行動を起こさない
      → 経済制裁を継続
    2. 『対話』を希望する
      → 何のための対話かを確認
    3. 「核兵器・弾道ミサイル」の放棄を宣言
      → 検証可能かつ不可逆的であるかの確認
    4. 軍事的挑発を継続する
      → 経済制裁を強化 or 先制攻撃
    5. 暴発し、他国に先制攻撃
      → 報復攻撃(=戦争)

 今回は “韓国の訪問団” が「北朝鮮は対話を希望しており、トランプ大統領もそれに応じると述べた」と発言したに過ぎません。非核化という目標が確実に達成できる見通しが立っていない現状で、「日本が孤立する」という見通しは意味を持たないと言えるでしょう。

 

2:北朝鮮に対する日米韓の優先度が異なるとの前提条件を見落としてはならない

 また、北朝鮮問題に関わっている日米韓のプライオリティーが異なっているという前提条件を忘れてはなりません。

  • アメリカ
    • 高:大陸間弾道ミサイルの開発
    • 中〜高:核開発
  • 日本
    • 高:拉致問題
    • 高:核開発
    • 低〜中:弾道ミサイル・朝鮮戦争
  • 韓国
    • 高:朝鮮戦争が再開
    • 低〜中:核兵器・弾道ミサイル開発

 日本にとって、北朝鮮問題で重要度が高いのは「拉致問題」と「核開発問題」です。「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発」は日本全土が射程範囲のミサイルが既に存在している訳ですから、重要性は高くありません。

 しかし、新たに「直接的な核攻撃を受けるリスク」に直面するアメリカは別です。したがって、自国を守るために甚大な被害をもたらす恐れのある『核』を優先して排除する方針を示すことは当然と言えるでしょう。

 

3:北朝鮮が「検証可能かつ不可逆的な核放棄」をしない限り、事態は何も動かない

 マスコミ報道からは「北朝鮮問題が急展開を見せ、平和に向けて動いている」との印象を受けることでしょう。ですが、事態はまだ何も動いていないのです。

 北朝鮮から “会談の申し入れ” に対する公式な発表はありません。また、「米朝首脳会談がいつ・どこで開催されるのか」というハードルも存在します。

 特に、開催地の選定で折り合いが付くのかは大きな疑問点です。「相手国を訪問する」という選択肢はおそらくないでしょう。また、6カ国協議の当事国での開催にも疑問符が残ります。そのため、スイスなど欧州が有力候補になると考えられます。

 しかし、キム・ジョンウン委員長が北朝鮮を離れるのかは不透明です。ジンバブエで起きたクーデターは「中国が関与していた?」と噂されており、キム・ジョンウン委員長の不在中に北朝鮮で同様のクーデターが勃発する可能性は否定できないからです。

 

 「北朝鮮が対話の姿勢を示したことを活かさなければならない」と声高に主張する人こそ、冷静になって、北朝鮮の過去の振る舞いを思い起こさなければなりません。

 現状は『対話』という項目にカーソルが当たっているだけであり、決定ボタンは押されていないのです。

 決定ボタンが押された後には「非核化に向けた動きが本当に行われるのか」をチェックする必要があり、“入り口に立っている姿” を目撃しただけで判断を下すことはリスクが大きいと認識する必要があると言えるのではないでしょうか。