日中韓3カ国首脳会談:北朝鮮情勢は「日本の孤立」ではなく、「三者三様」であることが浮き彫りに

 日中韓3カ国首脳会談が東京で行われ、共同宣言が発表されたと NHK が報じています。

 北朝鮮情勢について、マスコミは「日本は蚊帳の外」との論調を展開していましたが、その思惑は外れることとなりました。基本的に日本政府の主張が盛り込まれていますし、3カ国の主張内容も “三者三様” と表現することが的確だからです。

 

 北朝鮮情勢をめぐり、「われわれは、朝鮮半島の完全な非核化にコミット=関与しており、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定の維持は、共通の利益かつ責任であることを再確認する」としています。

 そのうえで「関係国の諸懸念に関する、関連国連安保理決議に従った、国際的な協力と包括的な解決によってのみ、北朝鮮にとって明るい未来への道がひらけることを強調する」として、「核や弾道ミサイル計画を完全で検証可能かつ不可逆的な方法で放棄する」などと明記された過去の国連安全保障理事会の決議に北朝鮮が従うことを求めています。

 外務省が掲載した共同宣言(仮訳)にも記載されており、日本政府が主張してきた内容が反映されていると言えるでしょう。

 ただ、日中韓の3カ国はそれぞれ立場が異なっていることは発言から伺い知ることができます。そのため、今後は北朝鮮の核兵器に対する「完全かつ検証可能で不可逆的な方法で廃棄(CIVD)」を着実に履行されるかがポイントになります。

 

北朝鮮に対する3カ国の立ち位置

 日中韓の3カ国は北朝鮮に対し、それぞれが異なった立ち位置を持っています。核兵器に対するスタンスだけでも以下のような違いがあるのです。

表1:北朝鮮情勢をめぐる日中韓の立ち位置
日本
  • 『板門店宣言』を評価
  • 核兵器に対しては「完全かつ検証可能で不可逆的な方法で廃棄(CIVD)」を要求
  • 「経済制裁の継続」に言及
中国
  • 『板門店宣言』に言及せず
  • 「非核化に向けた努力をしなければならない」
  • 非核化が失敗すると空爆による難民流入が現実にあるため、消極的に協力姿勢
韓国
  • 『板門店宣言』の「朝鮮半島の非核化」が限度
  • CIVD は許容不可
  • 北朝鮮に配慮し、段階的な経済援助を与えたい
    → 日本に資金拠出を要求

 日本はアメリカと歩調を合わせ、経済制裁を始めとする強行路線を採ることを明確にしています。

 対する韓国は「北朝鮮の要望に応えること」が最優先です。段階的な経済支援を引き出そうとしていますし、その請求書を日本に回したい思惑が透けて見えるのです。

 中国にとっての最悪のシナリオは「北朝鮮が親米の独裁国家に衣替えをすること」です。ただ、現実には「米朝会談決裂からの空爆で難民流入」を最も懸念する状況となっているため、消極的に制裁を行っていると言えるでしょう。

 

日中韓は三者三様、すべてはアメリカ政府(=トランプ大統領)の出方次第

 マスコミは北朝鮮情勢に対し、「日本は蚊帳の外」だと論調を繰り返し報じています。しかし、上記からも分かるように “三者三様” なのです。

画像:北朝鮮情勢に対する立場の違い

 むしろ、『米朝首脳会談』においてはアメリカと北朝鮮の両国以外の国はすべて “蚊帳の外” という現実を見落としてはなりません。

 日本・中国・韓国も肝心要の『米朝首脳会談』においては3カ国とも「蚊帳の外」なのです。日本は「アメリカと北朝鮮の核問題で “完全かつ検証可能で不可逆的な方法で廃棄(CIVD)” の方針で一致している」という状態ですし、中国は「北朝鮮からの接近を受けている」に過ぎません。

 したがって、アメリカ政府(=トランプ大統領)の出方が大きな鍵を握る米朝首脳会談において、トランプ大統領がどういったカードを切るのかが重要になると言えるでしょう。

 

「会談の場で無理難題を提示する」ことも “対話重視派” に含まれている

 マスコミに登場する “対話派” は「相手の言い分に耳を傾け、妥協点を探る」というタイプがほとんどです。

 ただ、それは対話派の一部であることを見落としてはなりません。なぜなら、対話の席において、自らの意見を主張するタイプも存在するからです。

  • 北朝鮮の主張に耳を傾け、妥協点を模索する
  • 「核・弾道ミサイルに対する『完全かつ検証可能で不可逆的な方法での廃棄(CIVD)』の具体案を示せ」と迫る

 トランプ大統領が米朝首脳会談の席で「後者の態度」を採ることが可能であることが理解できるでしょう。マスコミは “譲歩前提の対話派” を『対話派』の代表格として取り上げますが、現実には “強行姿勢を持った対話派” が存在するのです。

 しかも、北朝鮮の姿勢次第でトランプ大統領は「対話に臨んだが、北朝鮮は地域の安全を脅かす大量破壊兵器の CIVD を拒絶した」という空爆に向けた大義名分を手にすることになるのです。対話の種類・内容には様々な可能性が存在することを覚えておく必要があると言えるでしょう。

 

 交渉においては「背後にある “力” の有無」が大きな影響を及ぼします。『交渉万能論』を唱える弁護士が目立つのは「行政権力が裁判(≒ 交渉)に基づき行使されるから」です。

 しかし、国家間の外交交渉では “行政権力” に相当する力はありません。そのため、『武力』と『経済力』で代用せざるを得ないのです。

 どちらか一方の力が不足している時点で、相手国は「交渉の席に着いてやっている」と上から目線で接することでしょう。また、『武力』や『経済力』による報復がないことが確定的なら、交渉において極端に不利な状況に置かれることは避けられません。

 当事者として責任を追わない立場にいるマスコミの都合の良い言論を鵜呑みにすると、その責任を負うことになるのは自分自身であるという自覚を持っておく必要があると言えるのではないでしょうか。