麻生財務大臣が “重要懸案の個別調整” を行う G20 を欠席したのだから、アメリカの鉄鋼関税の対象になるのは当然の成り行きだろう

 アメリカが現地23日に鉄鋼やアルミニウムに対する新たな関税を発効し、日本もその対象になったことを朝日新聞が報じています。

 日本は関税の対象外となるために働きかけを行ってきましたが、その効果を得ることはできませんでした。特に、財務相や外相が国会審議に拘束され、取り巻く環境が大きく動いている状況から取り残されたツケを払う結果になったと言えるでしょう。

 

 23日に発効した米国の新たな鉄鋼関税は、例外扱いを求めてきた日本も対象となった。

 (中略)

 3月に入ると、世耕弘成経済産業相がライトハイザー氏と会談。河野太郎外相や河井克行自民党総裁外交特別補佐らも米国の政府高官や政治家と接触を重ねた。

 だが、穏健な態度を貫いてきた日本は、結果的にはしごを外された形だ。米国が課税方針を表明した直後に対抗措置の検討を強調してきたEUとは対照的だ。

 「接触を重ねた」と朝日新聞は記事で言及していますが、これはアリバイ作り程度で、「ベストを尽くした」とは到底言えないレベルです。

 特に、保護主義に走るアメリカ・トランプ政権の姿勢は懸念事項となっており、3月19日・20日に行われた G20 でも議題になっていました。麻生財務相が国会審議で出席を断念せざるを得ない状況になったことは少なからず影響を与えたと言えるでしょう。

 

1:麻生財務相の G20 欠席によるマイナス面は指摘済のことだった

 G20 主要20カ国・地域の財務相・中央銀行総裁による会議です。アルゼンチンで行われた今年の G20 では『仮想通貨』と『保護主義』が議題となっていました。

 麻生財務相は国会審議を優先するために欠席が決まったのですが、この件に対し、毎日新聞が次のような懸念を表明しています。

 保護主義への対応も議題となる。トランプ米政権が発動を決めた鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に対し、中国や欧州連合(EU)は、報復措置を取ることを示唆。貿易戦争に発展する恐れが高まっており、各国が自由貿易の重要性について足並みをそろえられるかが注目される。

 (中略)

 G20では、各国の財務相が個別の会談を行うのが通例となっており、膝詰めでそれぞれの懸案を話し合ったり、全体会合での意見調整を図ったりする重要な場となっている。だが、今回は麻生氏が欠席するため、日本はこのような調整の場を持つことが難しくなった。

 G20 は「日米の財務大臣が懸案事項を直接話し合うが可能」となる数少ない場なのです。そのチャンスを「国会審議は何よりも優先されるもの」との考えを持つ野党やマスコミが潰した訳ですから、代償を関税という形で支払うことになったのです。

 

2:財務大臣の “代理” が懸念を述べたところで、本気とは受け取られない

 「G20 に財務大臣を送り込めない」という事実は他国は「日本は今回の G20 で扱う議題をそれほど重要視していない」と見られる要因になったことでしょう。

 なぜなら、『国会で議論されている項目』の方が『G20 での議題』よりも重要視しているというメッセージを送ることになるからです。

 同じことは他の閣僚にも言えることです。通商交渉は財務大臣に加え、外務大臣や経済産業大臣も重要な立場にいるのですが、両者ともに国会に張り付けられることを余儀なくされています。

 それによって、国益が損なわれているのです。今回はアメリカの関税対象という明らかなマイナスが生まれましたが、その原因を作ったのは「国会でパフォーマンスを行うことに終始する野党議員」と言えるでしょう。

 

3:アメリカにとっては “見せしめ” 的な制裁

 今回、アメリカ・トランプ政権が発効した鉄鋼・アルミ関税は “見せしめ” 的な要素が強いと言えるでしょう。なぜなら、輸入量の多い国・地域はいずれも暫定的に対象外となっているからです。

 トランプ大統領はビジネス(=ディール)という形で通商政策を進める傾向にあります。『関税』を二国間通商交渉(= FTA 交渉)や TPP 再加入のカードとして利用しようと考えている可能性はあると思われます。

 日本の国益を考えるのであれば、アメリカ保護政策を批判することは必須です。“アンチ・トランプ” を掲げる欧米メディアと歩調を合わせる日本のマスコミが先頭に立つ形でトランプ大統領の政策を批判する論説を展開してくれることでしょう。

 「はしごを外された安倍政権が悪い」という主張は “二の次” とし、アメリカの方針を批判しなければなりません。野党やマスコミが日本政府の足を引っ張り続けたことで生じた国益の損失に対し、メディアがどのような見解を表明するのかに注目です。