荒瀬ダム撤去完了のニュースは「ダムは良いことづくめではない」ことを示している
熊本・八代市にある荒瀬ダムの撤去工事が完了したと読売新聞が報じています。
治水や水力発電の目的でダムが新たに建設されることはあっても、撤去は珍しいニュースと言えるでしょう。撤去の理由が水質悪化や悪臭というものですから、ダム設置によるデメリットも今後は考慮すべき項目であることが認識されることになると考えられます。
熊本県八代市の県営荒瀬ダムの撤去工事が今月下旬に完了した。
本格的なコンクリートダムの撤去は全国初となる。悪臭や水質悪化の要因となっていたダム湖が姿を消して球磨川に清流が戻り、生物の種類も増えた。地元住民らは「ダム撤去の町」を掲げて地域おこしに乗り出した。
治水や発電という観点において、ダムは有効な方策の1つであることは今後も変わりないでしょう。
ただ、「完璧な対策ではない」ということが証明されました。この事実は今後の治水対策に活かすべき点であると言えるはずです。
“流れない水” が原因で水質悪化が生じ、悪臭が発生
水流が存在しなければ、淀みが生じ、水質悪化を招く要因となります。これは “清流” と真逆の現象が起きているからです。
荒瀬ダムで水質悪化や悪臭が発生した大きな理由は「夏場に上流域で雨が(ほとんど)降らない」という気象面でしょう。
荒瀬ダムは『水力発電専用ダム』として建設されましたが、上流域で降雨がなければ、発電目的を果たすことはできません。ダムの貯水が発電に適した “一定量” に達する前に、汚泥やヘドロによる水質悪化が生じ、悪臭を放つようになってしまっていたのだと考えられます。
つまり、ダムによる恩恵(プラス面)よりも、損害(マイナス面)の方が大きかったということです。この事実を受け、ダム撤去に動くことになったと言えるでしょう。
荒瀬ダム撤去に向けた時系列
撤去された荒瀬ダムに関する時系列は下表のとおりです。
1955年 | 荒瀬ダムが完成 |
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2002年 | 潮谷義子知事(当時)がダム撤去を表明 |
2008年 | 蒲島郁夫知事がダム撤去方針を撤回 |
2010年 | 蒲島知事がダム撤去を正式決定 |
2012年 |
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撤去をめぐって方針が変更した経緯はありましたが、2010年に正式決定し、2018年3月に工事が完了しました。それにより、水質汚染や悪臭の問題が解消され、BOD (生物化学的酸素要求量)も国が定める「きれいな河川の基準」を満たしているのですから、良い結果をもたらしたと言えるでしょう。
荒瀬ダムでせき止められていた土砂が球磨川と通って八代海にまで流入。瀬や砂州だけでなく、干潟という点で生物環境を好転させた効果は大きいと考えられます。
「安易に発電用ダムを建設すべきでない」ということが教訓だ
「荒瀬ダムの撤去完了」のニュースは「安易に発電用ダムを建設すべきではない」とのメッセージを送っています。治水対策という点でダムは堤防と並ぶ有効な手段です。ただ、水と一緒に土砂もせき止めるため、環境に影響を与えることになるという点は留意する必要があります。
昨今では『環境アセスメント』を事前に行うため、昔とは比べ物にならないほど環境には配慮されています。しかし、それでも “漏れ” や “思わぬ副作用” は生じる可能性はあるのです。
荒瀬ダムと同様の問題が生じる可能性があるのは「再生可能エネルギーで発電した余剰分を一時的に転換するための揚水型発電ダム」でしょう。
再生エネは「発電量が安定しない」との批判を受けており、その対策として「揚水発電と組み合わせ、発電量の安定化を図る」という対応策が打ち出されているからです。
しかし、一定の貯水量がなければ、揚水発電を行うことはできません。それにより、荒瀬ダムでの問題と同じことが起きる恐れがあるのです。
行政と住民には「『治水』と『環境』を両立する “バランス感覚” が求められている」と言えるでしょう。河川に蓄積する土砂については『掘削』や『撤去』という選択肢も柔軟に織り交ぜた形の治水対策が重要になると言えるのではないでしょうか。