救命作業中の女性に「土俵から下りて」とアナウンスした日本相撲協会の責任は重い
京都府舞鶴市で行われていた大相撲の春巡業で挨拶をしていた多々見市長が倒れるという事件が発生し、その際に「女性の方は土俵から下りてください」とのアナウンスがあったとテレビ朝日が報じています。
このアナウンスは論外と言えるものですが、アナウンスをさせた原因は日本相撲協会にあります。問題点が浮き彫りとなった訳ですから、根本的な解決策を打ち出し、実行する必要があると言えるでしょう。
4日午後2時すぎ、舞鶴市の体育館で行われた大相撲春巡業の土俵上で、あいさつに立った多々見良三市長(67)が途中で意識を失い、倒れました。
実行委員会によりますと、看護資格を持っていたとみられる女性2人が土俵に上がり、救命措置をしていたところ、日本相撲協会の関係者から「女性の方は土俵からおりてください」とのアナウンスが2回ほど流れたということです。アナウンスの内容は相撲協会独自の判断だったといいます。
多々見市長はくも膜下出血で手術を行い、命に別状はないということです。市の担当者は「最初の手当てのおかげで命が助かり、女性が確認できたらお礼を言いたい」とコメントしています。
「女性は土俵からおりて」とのアナウンスは問題だが、相撲協会の方針に従ったもの
「女性の方は土俵からおりて」とアナウンスがあったことが世間から批判されています。土俵に上がった女性が救急救命中だった訳ですから、批判が寄せられることは当然です。
ただ、アナウンスをした行司が責められるのは酷なことです。
なぜなら、大相撲は「土俵は女人禁制」を伝統として来ました。アナウンスされた内容は “伝統” を遵守したものであり、規則に沿った業務をしただけに過ぎないからです。
規則を決めたのは上層部なのです。また、混乱の最中で現場が正確な状況把握を行えたとは思えません。精査・整理された情報を基に、外部から行動をバッシングすることは避ける必要があると言えるでしょう。
責任は上層部にあるです。
救命行為ができる医師とスタッフを土俵脇に配置していなかったことが問題
土俵上で倒れた多々見市長のケースですが、救命行為ができる男性医師と男性スタッフを土俵脇に配置していれば騒動は起きなかったでしょう。
- 男性のみで構成された医療班(医師+スタッフ)を土俵の近くに配置
- 緊急時の対応を相撲協会の職員を含め、係員に教える
相撲協会が “採っているべきだった対策” は上記のものであり、ハードルはそれほど高くありません。これらの対策を講じることなく、「土俵で問題が起きることはない」と高を括っていたことが問題の根本的な原因となったのです。
救急対応が求められる突発的な出来事に遭遇した際に適切な対応ができる人材がいなかったことが協会にとっては致命的でした。
伝統を守るのであれば、その準備に万全を期すことが必須
ただ、今回の出来事についての対応策はそれほど難しくないでしょう。適切な対応を採ることで、騒動も比較的早期に沈静化させることが可能だからです。
例えば、八角理事長が次のような項目に言及したコメントを出し、今後の対策を表明すれば良いと考えられるからです。
- 倒れた多々見市長の早期回復を願う内容
- 即座に救命行為を実施した女性への感謝の意
- 女性に土俵から下りるようにとのアナウンスは大相撲の伝統を遵守したもの
- その伝統を遵守していくために「必要不可欠な対処」が講じられていなかったことが問題
- 今後(の本場所や巡業で)は救護班の設置を義務付けるとともに協会職員も緊急時講習を受けることが再発防止策
おそらく、上記の項目をすべて含んだコメントを出せば、批判はすぐに収まることでしょう。その上で、巡業中に起きた協会側による不祥事という理由で理事長および巡業部長に厳しい処分を科せば、“事後の対応” は高い評価を得られたはずです。
相撲協会は「守るべき伝統」と位置づけた価値観を守るために必要な準備ができていなかった不手際を認め、反省することが先決です。マズい対応をした現場に責任を押し付けるようなことはあってはならないことなのです。
そのことを認め、矛盾が生じる可能性がある中で本場所や巡業を行ってきた相撲協会の運用体制が問題であり、それが改善点であるという認識で協会全体が取り組む必要があると言えるのではないでしょうか。