イタリアで『5つ星運動』と『同盟』による連立政権が発足、G7 を前に何とかメンツを保つ

 3月に行われた総選挙後、政権発足に向けた交渉が続いていたイタリアで決着が付いたと NHK が報じています。

 連立交渉の合意後に大統領が拒否権を発動して、差し戻しを命じるなど混乱がありましたが、政権発足になったことで安定へと向かうでしょう。ただ、EU 懐疑派が議会過半数を占めており、対立姿勢が強まる言動が大きくなる認識を持っておく必要があります。

 

 イタリアでは、ことし3月の議会選挙で、EUに懐疑的な立場をとる新興政党「五つ星運動」と右派政党「同盟」が躍進したものの、政党間の連立協議が難航したうえ、閣僚の任命権をもつマッタレッラ大統領との対立も続き、政権が発足しない状態が続いてきました。

 3か月近くにわたる協議の結果、先月31日になって、2つの政党が推薦していた法学者のジュゼッペ・コンテ氏が、大統領から首相に指名され、1日、ローマの大統領府で閣僚の任命式が行われて、ようやく新政権が発足しました。

 NHK のニュースでは「マッタレッラ大統領との対立」が極端にまで矮小化されています。市場に大きな混乱をもたらした大統領の振る舞いを批判する必要はあると言えるでしょう。

 

イタリア・コンテ政権発足までの道のり

 2018年3月に行われた総選挙後の時系列は以下のとおりです。

2018年3月 議会総選挙で『5つ星運動』が政党として第1党に躍進。過半数を得る会派・政党がなく、連立交渉が開始
5月20日 『5つ星運動』と『同盟』が連立政権樹立で合意。ジュセッペ・コンテ氏を首相に指名。
5月28日 コンテ氏が提出した閣僚名簿(=サボーナ元産業相の経済財政相就任)に対し、マッタレッラ大統領が拒否権を発動。コンテ氏は首相を辞退し、マッタレッラ大統領はコッタレッリ氏を首相に指名
5月31日 イタリア国債が急落するなど金融市場に大きな影響が生じたことでコッタレッリ氏が首相指名を辞退。コンテ氏が再指名される
6月1日 コンテ氏が「サボーナ元産業相を欧州担当相にする」との閣僚名簿を提出したため、大統領が承認。政権発足となる

 はっきり言って、5月28日以降のマッタレッラ大統領の動きは余計と言えるでしょう。なぜなら、金融市場で不安を煽る行為をしたことと同じだからです。

 コンテ政権の「正式発足」には議会で信任を得る必要がありますが、『5つ星運動』と『同盟』で議会多数派を抑えています。そのため、議会が理由でさらなる政治空白が生じることはないと予想されます。

 

6月8日からカナダ・ケベック州シャルルボワで行われる G7 には間に合う形に

 今年は6月8日からカナダ・ケベック州シャルルボワで『G7 首脳会合』が行われます。「自国の首脳」が不在であれば、それだけ発言力が低下する訳ですから避ける必要があったのです。

 6月5日と6日に議会で「コンテ政権発足の信任を問う」ことが予定されていますので、議会の信任を得た “イタリア新首相” として G7 でデビューすることは悪いことではありません。

 ただ、EU 不信の火種は依然として燻り続けている状況なのです。EU のトゥスク大統領が「誠実な協力を」と要求したところで、逆効果になる可能性が高いと言えるでしょう。

 

イタリアでも内相に「反難民派の政治家」が就任

 日本では戦前まで存在した内相(=内務大臣)ですが、諸外国では現在も存在する役職です。国ごとに役割が異なるのですが、“反難民の姿勢を鮮明にする政治家” が内相に就任するケースが目立っています。

 その理由は「内相は警察機構を管轄する立場にある」というものです。

 自称・難民や不法移民の取り締まりを行うのは現場の警察官です。内相は『警察官の属する警察機構のトップ』という立場であり、「不法移民や難民への取り締まりを強化せよ」との命令を出せる権限を有しているのです。

 イタリアやバルカン諸国といった難民の移動経路上にある国々で “反難民の立場を採る内相” が誕生しているのは「不法入国者(=難民や不法移民)への対処が不十分」と有権者が判断を下しているからでしょう。

 EU やドイツが掲げた『甘い幻想』のツケをそれらの国々は支払わさせられているのです。ヨーロッパで難民問題が尾を引き、緊張関係が続くことは確実と言えるのではないでしょうか。