イタリア、『5つ星運動』と『同盟』による大衆迎合政権が発足間近となる

 3月に行われた総選挙後、政治空白が続いていたイタリアで政権発足が間近に迫っていると日経新聞が報じています。

 首相候補のジュセッペ・コンテ教授に経歴詐称疑惑が生じており、この点が政権発足に向けた新たな障害になる可能性があります。ただ、『5つ星運動』と『同盟』が連立で合意しているため、政権発足は時間の問題と言えるでしょう。

 

 イタリアのポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」と極右「同盟」は20日までに、両党が合意した政策内容について支持者の承認投票を実施し、賛成多数で可決された。

 (中略)

 五つ星と同盟は歳出拡大で消費や経済成長を促し、公的債務を削減する姿勢を打ち出している。合意した政策には大型減税や、失業者らへの月780ユーロ(約10万円)の最低所得保障、福祉手当の拡充が入るなど、大盤振る舞いのばらまき政策が目立つ。

 財源は明確ではなく、政府債務残高が国内総生産(GDP)比130%を超えるイタリアのさらなる財政悪化への懸念が早くも強まっている。

 

『5つ星運動』と『同盟』で議会多数派を形成

 『5つ星運動』と『中道右派連合』による連立交渉が行われた過去がありましたが、交渉は決裂しました。

 これは『中道右派連合』の一角を形成する『フォルツァ・イタリア』を率いるベルルスコーニ元首相が連立に否定的だったからです。ただ、『フォルツァ・イタリア』が連立政権に加わらないことで譲歩。

 これにより、連立に前向きだった『5つ星運動』と『同盟』による連立政権が発足する流れになりました。

 得票率(= 議席数)では、『同盟』が『フォルツァ・イタリア』を上回っています。そのため、議会内でのパワーバランスがおかしくなるような事態はないと言えるでしょう。

 

反 EU 政権が発足する公算大

 『5つ星運動』と『同盟』による連立政権ですが、EU との関係は悪化することが現実に起こり得ると言えるでしょう。

  • 歳出拡大で消費や経済成長を促す
    → それにより公的債務の削減を目指す
  • 大型減税の実施
  • 失業者に月780ユーロの最低所得保証
  • 福祉手当の拡充

 財務状態が良いとは言えないイタリアで “バラマキ政策” を実施するのです。EU との関係性は悪くなる方向に傾くことになると思われます。

 『同盟』を率いるサルビーニ書記長は『北部同盟』時代に「ユーロ離脱」を唱えるほど、EU に対する強烈な不信感を持っていた過去があります。そのため、EU との対決姿勢を強めることで、イタリア国内の支持を固める動きを強める可能性があると言えるでしょう。

 

「ポピュリズムを煽る正当な理由と根拠」がイタリアには存在する

 イタリアで大衆迎合主義(ポピュリズム)の姿勢を鮮明にする政党が議会で過半数を獲得したのには理由が存在します。

  • 「豊かな北部と貧しい南部」という『南北問題』が存在
  • 『難民流入』で南部に位置する州の財政が圧迫
  • 外国籍の NGO が「人道支援」を理由に地中海で難民を救助し、イタリア南部に輸送
  • 州財政の圧迫が進行し、行政サービスが悪化
    → 格差が拡大する

 この状況では「大衆(=イタリア国民)が不満を溜め込まない方がおかしい」と言えるでしょう。

 例えば、ドイツの NGO が地中海でアフリカ系の自称・難民を『人道支援』の名目で救助。彼らをイタリアに輸送すれば、保護責任はイタリアが負うことになるのです。

 「規則で定められたこと」と主張しても、財政負担を強いられるイタリアの大衆は納得できないでしょう。ドイツ籍の NGO なら、救助した人々を直接ドイツに輸送していれば、文句は出ないはずです。

 このような “真っ当な支援活動” をしていないのですから、大衆の不満に訴える政党が躍進する土壌が形成されることになったと言えるでしょう。

 

 G7 の一角であるイタリアで “大衆迎合” や “極右” とメディアが枕詞を付けて報じる政党による連立政権が発足する見通しが高くなったことは驚きと言えるでしょう。ただ、その後押しを強力に行ったのは『難民問題』による負担を押し付けてきた EU なのです。

 結束が揺らぎつつある EU を始め、ヨーロッパにどのような影響が生じることになるのかを注視しておく必要があると言えるのではないでしょうか。