アメリカが鉄鋼製品の迂回輸出をしていた韓国と台湾に対して追加関税を課すと発表

 ロイター通信によりますと、アメリカ商務省が韓国や台湾で生産されベトナムで最終加工を施された鉄鋼製品に対する関税を課すと発表したとのことです。

 トランプ政権はアメリカ向けに輸出される鉄鋼製品を制限する政策を採っており、韓国も対象に含まれています。同業他社からの要請を受けた調査で今回の “迂回輸出” が発覚しており、他分野での違反があったとしても不思議ではないと言えるでしょう。

 

 米商務省は2日、韓国あるいは台湾で生産後、ベトナムで最終加工を施し、米国に輸出された一部の鉄鋼製品に最大456%の関税を課すと発表した。

 発表によると、ベトナムで生産され、米国に輸出されていた耐食鋼材と冷延鋼板が、実際は韓国や台湾で作られた鋼材をベースに使っており、米国の反ダンピング・補助金相殺関税を回避していることが判明した。

 韓国製と台湾製の鋼材に対する関税は2015年12月と2016年2月に発動された。その後、2019年4月まで、ベトナムから米国に輸出される耐食鉄鋼製品と冷延鉄鋼は、それ以前の同じ期間と比べて332%、916%それぞれ増加したという。

 今回の商務省の調査は、アルセロール・ミタル(MT.AS)の米国部門、スチール・ダイナミクス(STLD.O)、USスチール(X.N)、ニューコアNUE.O、AKスチール(AKS.N)などの要請を受けたもの。

 

アメリカから鉄鋼関税は免除されていたものの、輸出数量を制限されていた韓国

 韓国はトランプ政権が「鉄鋼製品への関税適用」を持ち出した際、適用免除に奔走しました。結果的には「免除」を勝ち取ったのですが、代償として「クオータ制」を導入することになっています。

 韓国政府によると米国が韓国を鉄鋼輸入制限の適用から除外する代わりに、韓国は輸出数量を制限するクオータ制を導入する。2015~17年の平均輸出量(383万トン)の70%を上限とする。

 つまり、対米輸出の上限を設定されることを条件に韓国製鉄鋼材への関税を回避してもらっていたのです。

 ところが、実態は “韓国以外の国” で最終加工を行い、それをアメリカに輸出していました。同業他社が「不正疑惑」に対する調査要請を当局に行った結果、“迂回輸出” の実態が明らかとなり、関税の対象になったと言えるでしょう。

 

POSCO のベトナム工場には冷延鋼板を製造する能力がある

 韓国は2018年3月に『クオータ制』の適用対象となることが発表のですが、上半期の時点で許可された数量分の輸出をしてしまっていました。そのため、“韓国からは” 輸出をしたくてもできない状況だったのです。

 しかし、韓国以外の国や地域からの対米輸出であれば、「韓国に対する制約」の対象外と見なすことができます。

 韓国の鉄鋼メーカーであるポスコ(POSCO)はベトナムに子会社を有しており、新冷延ミルを保持(= PDF)しています。主要設備が『冷延』なのですから、2018年の下半期はベトナム工場をフル稼働させていたのでしょう。

画像:ポスコ・ベトナム

 その結果、ベトナムからの冷延鉄鋼の対米輸出が前年同期比 +916% と突出し、迂回輸出の揺るぎようのない根拠になってしまったのだと考えられます。

 

ムン・ジェイン政権が「製鉄所の操業停止」の行政処分を下しているため、韓国国内の生産量そのものが低下する可能性

 関税を課されるという痛手を負った韓国の鉄鋼業界ですが、これは軽微な問題です。なぜなら、韓国国内で製鉄所の操業停止という行政処分が下されているからです。

  韓国鉄鋼業界が危機を迎えた。汚染物質排出問題で全国各地の製鉄所が地方政府から操業停止処分を受けている。製鉄所の高炉は消えない火の象徴であり、10日間の操業停止は世界的に類例がない。今回の行政処分で鉄鋼業界は少なくとも2兆ウォン(約1840億円)の被害が生じると予想している。

 環境団体が「製鉄所の高炉から環境汚染物質が排出されている」と主張し、行政が「10日間の操業停止」の処分を下しました。

 高炉は「高温の炉内で鉄を溶かす」ため、操業を停止してしまうと炉内で銑鉄が固まってしまいます。つまり、操業再開には炉内で固まってしまった銑鉄を除去する必要が生じるのです。

 除去には「少なくとも3ヶ月」は要しますし、長ければ「半年」はかかります。「たかが10日」と環境団体は思うでしょうが、その損失は極めて大きくなることは目に見えています。

 もし、この行政処分に正当性が与えられるなら、韓国の鉄鋼メーカーは国外脱出に本腰を入れることでしょう。経済政策を軽視する政権には大きなリスクがあることを如実に示した事例と言えるのではないでしょうか。