経産省の『輸出管理強化』に対し、韓国政府が『WTO提訴』よりも『二国間協議』を強く求め続ける理由

 経産省が「(韓国に対する)輸出管理を強化する」と発表したことに対し、韓国政府が異常なほどの反発を見せています。

 挑発どころか恫喝と言うべき発言が韓国政府首脳から相次いでいますが、いずれも「そうならないために二国間協議に応じよ」と要求している特徴があります。その背景について言及することにしましょう。

 

韓国政府首脳などが発言した内容

 経産省による輸出管理の強化に対し、韓国政府は「恫喝」とも取れる発言をしています。

 チェ・ジェソン議員は与党・共に民主党に所属し、日本経済侵略対策特別委員会の委員長を務める人物です。政府首脳だけでなく、有力議員も “なりふり構わず” に恫喝に出ていることを認識しておく必要があります。

 ただ、注目すべきはいずれの発言者も「外交的な解決を模索すべきだ」と述べている点です。

 『WTO に提訴』という選択肢があるにも関わらず、『二国間協議』に固執する必要はありません。したがって、韓国が『WTO に提訴』という選択肢に消極的な理由を考える意味があると言えるでしょう。

 

2019年の年末には機能不全に陥ることが確実な WTO の紛争解決制度

 韓国政府が「経産省の輸出管理強化」に対して『二国間協議』を固執する理由は「WTO の紛争処理手続が機能不全に陥る可能性が高いから」でしょう。

 貿易紛争の解決は「WTO (= 世界貿易機関)の上級委員会」で最終的な結論が出されます。上級委員会(Appellate Body)は7名の委員によって構成され、その中から選出された3名で構成される部会が紛争解決に当たることになっています。

 ところが、欠員の補充が進んでおらず、機能不全に陥ることが時間の問題なのです。

表:WTO 上級委員会(2019年7月27日現在)
地域 委員 任期 立場
アジア
(3)
H・ジャオ
(中国)
〜 2020年11月 現職
U・バティア
(インド)
〜 2019年12月 現職
H・C・キム
(韓国)
〜 2017年 退任
北米
(1)
T・グラハム
(アメリカ)
〜 2019年12月 現職
中南米
(1)
R・ラミレス
(メキシコ)
〜 2017年 退任
欧州
(1)
P・バンデンボッシュ
(ベルギー)
〜 2017年 退任
アフリカ
(1)
S・サバーシング
(モーリシャス)
〜 2018年 退任

 上級委員は「任期4年・再選1回まで」との条件ですが、任命に対する拒否権を持つアメリカが欠員の補充を拒んでいます。次に任期が切れるバティア氏とグラハム氏はどちらも2期目であり、再選はありません。

 つまり、両委員の任期が満了する2019年12月10日を過ぎると、上級委員はジャオ氏(中国)のみとなり、上級委員会を開催することができなくなるのです。

 したがって、輸出管理の強化に不満を持つ韓国が『WTO に提訴』を選択しても、紛争を解決する上級委員会が委員不在で開かれず、結論が出る見込みが立たない恐れがあるのです。これは問題の早期解決を目指す韓国政府にとっては避けたい状況と言えるでしょう。

 

アメリカは WTO に「中国や韓国などを途上国扱いすることは止めろ」と不満を表明

 アメリカの WTO に対する印象は良いものではありません。理由の1つは「国営企業への補助金交付を正当化したこと」でしょう。

 WTO は「中国の国営企業は “公的機関” ではなく、単に政府の所有下にあるだけ」との理由で「補助金交付によって損害を被る他国が報復関税をかけることは問題である」との結論を下しました。

 「中国のダンピングには正当性がある」との結論を出したのですから、アメリカなどが批判の声を出すのは当然と言えるでしょう。また、トランプ大統領は WTO の途上国認定にも不満を表明しています。

 「1人あたりの GDP で上位10カ国に入るブルネイ、香港、シンガポール、UAE などが途上国に認定されるのはおかしい」と指摘し、「G20 のメンバーであるメキシコ、韓国、トルコが途上国なのもおかしい」と批判しています。もちろん、「世界2位の経済大国の中国が途上国になっていること」も批判の対象です。

 途上国と認定されれば、貿易上の優遇措置を得ることになります。現状を放置する考えがアメリカ・トランプ大統領にはないから、「体制の見直しを WTO に迫るよう通商代表部に支持する書簡」を公表したのでしょう。

 

 WTO の抱える問題点が浮き彫りになっている以上、『個別の紛争処理』よりも『WTO 改革』が優先されることが予想されます。

 「『WTO の改革』が完了するまでは結論が出ない」のであれば、相手国を恫喝してでも『二国間協議』に引っ張り出すことが極めて重要になります。そのため、日本側は「韓国が要求する協議に応じる必要も責務もないこと」を念頭に置いた対応に終始することが求められているのです。

 韓国の身勝手な振る舞いに理解や配慮を示す必要はありません。信頼関係を構築できない相手を優遇する必要は皆無なのですから、「まずは日本に信頼される態度を継続することからだ」と突き放す必要があると言えるのではないでしょうか。