東京オリンピックの主会場となる新国立競技場が報道陣に公開、陸上競技以外の観戦には難しい会場と言わざるを得ない
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの主会場となる新・国立競技場が完成し、15日(日)に内部が報道陣に公開されたと NHK が伝えています。
陸上競技を観戦するには適していますが、それ以外の競技を観戦するには難しい環境と言わざるを得ません。陸上トラックや幅跳びの砂場など、観客席をピッチの中心から遠ざける要素が多いからです。運用面で苦労することになるでしょう。
東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムになる新しい国立競技場が先月完成したことを受けて、15日、内部が報道陣に公開されました。
このうち競技場の4階部分からは天然芝のフィールドやトラックのほか、木が使われた屋根などを見渡すことができ、すり鉢状に3層に分かれている観客席はそれぞれの層の傾きを変えることで観戦に、より臨場感を出す設計になっているということです。
陸上競技では臨場感を期待できるが、サッカーなどの他競技は “興醒め” する要素がある
新・国立競技場の内部は「独創性に富んだデザイン」とは言えないでしょう。なぜなら、陸上競技を実施するための設備や観客席の要件を満たそうとすると既に存在する競技場と似通ったものになりがちだからです。
イタリアの首都ローマにあるスタディオ・オリンピコ(上の写真)と “内部の構図” は似ています。
スタディオ・オリンピコはサッカーの元日本代表・中田英寿氏が所属したローマが本拠地にしているのですが、陸上トラックが妨げとなり、サッカー観戦に適しているとは言えません。
ロンドン・オリンピックの主会場だったメインスタジアムも同様の状況にあるため、陸上以外の他競技を観戦する際には “興醒め” が起きる原因となるでしょう。臨場感をいう点では大きなハンデを背負っていることは否定できないのです。
「陸上競技でしか使用しない設備が観客席をピッチから大きく遠ざける」という皮肉
陸上競技を観戦する際に新国立競技場の臨場感が問題視されることはないと考えられます。これは「陸上競技を実施することを優先されたスタジアム設計」と言えるからです。
しかし、陸上トラックや幅跳び用の砂場を使うのは「陸上のトラック競技」だけです。
それらの種目だけで競技場の維持・運営費が賄えると良いのですが、現実には不可能です。その一方で “陸上のトラック内に設置されている芝生部分” で実施可能な競技は複数存在します。
しかも、これらの競技は毎週末の開催が可能であり、陸上とは比べものにならない入場料収入が期待できます。ただ、サッカーやラグビーなどの競技にとって『陸上トラック』は「ピッチと観客席を遠ざける障害」でしかありません。
この部分に上手く折り合いを付けることができずに建設してしまったのですから、今後は “負の遺産” として維持・運営に苦労することになるでしょう。
『ザハ案』で突き進んでいたとしても、“内部のがっかり感” が残されたことは否定できない
新・国立競技場の原案は『ザハ案』でしたが、「外見の奇抜さ」と「建設費高騰への懸念」が浮上したことで撤回へと追い込まれました。
デザイナーにフリーハンドを与えると、予算が青天井で増加しても止める手立てはありません。“白紙の小切手” を手渡した行政の責任者が猛烈な批判を浴びることになる訳ですから、撤回に追い込まれるのは止むを得なかったと言えるでしょう。
『ザハ案』の原案はサッカーなどの球技が行われる際は「(陸上トラックの上に)可動式の座席を設置する」とのデザインだったため、臨場感はあったはずです。ただ、提示された『ザハ案』のデザイン画にオーロラビジョンが描かれていないことを指摘する声はなかったと記憶しています。
ピッチ脇の電光掲示板は「2層式で設置する」と具体的に描きながら、スコアやアスリートを大写しにするためのオーロラビジョンがないのは奇妙なことです。(隈研吾氏のデザインにはある)
おそらく、『ザハ案』で強行していたとしても同様の問題が起きていたことでしょう。巨額の赤字を生み出す箱物を作り出すだけで責任を取らずに済んでいる陸連や五輪委員会への対応を改める必要があると言えるのではないでしょうか。