ウクライナの民間旅客機を誤爆してしまったイランは革命防衛隊に責任転嫁し、『融和路線』で局面打開を図るべきだろう
8日にイランの首都テヘランの空港を飛び立ったウクライナの旅客機が墜落したことに対し、イランが当初の説明を覆して誤って撃墜したことを認めたと NHK が報じています。
「責任の所在」と「賠償する資金」はイランの現指導部が体制を維持したまま準備することは可能です。戦争にまでエスカレートするリスクは回避できているのですから、これからは外交手腕が問われることになるでしょう。
今月8日、イランの首都テヘラン近郊の空港を離陸したウクライナ国際航空の旅客機が墜落し180人近くが死亡したことについて、11日、イラン軍は一転して、誤って撃墜したことを認めました。
これについて、イランの最高指導者ハメネイ師は声明を発表し、「調査の結果、今回の旅客機の事故で、人為的な過ちが認められたことが報告され、この悲しい事故で人々が亡くなったことに衝撃を受けている」としたうえで犠牲者の家族に深い哀悼の意を示しました。
そのうえで、イラン軍に対して今回の撃墜についての原因究明や責任の所在を明らかにするよう指示するともに、すべての関係機関に再発防止のためにあらゆる措置をとるよう求めたということです。
責任の所在は「革命防衛隊の保守強硬派にある」と論点をずらすべき
まず、『責任の所在』は「革命防衛隊にある」と切り出す必要があります。革命防衛隊はソレイマニ司令官が支持されていたように保守強硬派の実行部隊となっています。
つまり、ソレイマニ指揮官の思想が広く根付いている限り、イラン政府は『対話に基づく融和路線』を採りたくても採れないという現実があるのです。
偶発的な衝突から戦争にエスカレートすることはアメリカやイランの両政府が望むことではありません。両政府ともに「割に合わない」と認識していますし、戦争を好むのは「武勲をあげたい(一部の)軍人」と「戦争報道で儲けたいマスコミ」だけでしょう。
したがって、革命防衛隊の最強硬派に責任を転嫁することは合理的です。
「ドイツが悪いのではない。悪いのは暴走したナチスだ」と責任転嫁に成功した例が存在するのです。過去の成功例に従うことで、『対話』や『融和』の選択肢を認めない勢力を一時的に抑えることができるのです。まずはこのやり方をすべきと言えるでしょう。
「『対外資産』または『石油の輸出』で賠償を賄う」とアメリカを逆に揺さぶるべき
次に、イランは賠償に応じる構えを見せていますが、その場合は「外国人の犠牲者から先に対処すべき」です。これは「外野からの声を抑える」とともに「外交時に利用できる」からです。
賠償額は「犠牲者の国籍保有国の裁判において認められた平均額」を基準とし、支払いは「イランの『対外資産』または『石油の輸出』で行う」とするのです。
この提案は「妥当」に見えて、実は「後々の外交交渉で役立つこと」が “ミソ” と言えるでしょう。
例えば、イラン外務省が昨年末に「原油代の約6500億円を払え」と韓国大使に抗議したものの、韓国は『アメリカの制裁』を理由に支払いに応じていないと朝鮮日報が報じています。つまり、イランは韓国に対外資産を持っている状態なのです。
金利はほぼゼロですから、イラン側に旨味はありません。したがって、カナダやウクライナに「韓国にあるイランの対外資産で賠償する」と言えば、どこかの当事国はイランの味方になるでしょう。
それと並行して「石油資源で払う考えもある」と宣言すれば、犠牲者の遺族(や突き上げを受ける政府)が「イランの原油輸出を緩和せよ」とアメリカに圧力を加えることも期待できます。このような動きが現実化した場合に強硬派が足を引っ張るのは明らかです。
ですから、外交での振る舞い方次第で今回の “悲劇” を上手く利用することは十分に可能だと言えるでしょう。
イラン情勢が緩和されることで中東での緊張が解かれる可能性は十分にあります。そうした動きが本格化するかが注目点と言えるのではないでしょうか。