アメリカが『イランの革命防衛隊ソレイマニ司令官』をイラクで殺害、識者から「国際法違反」との無理筋な批判が起きる

 NHK によりますと、アメリカがトランプ大統領の指示に基づきイラクの首都バグダッドでイランの革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したとのことです。

 この対応に政権との対決姿勢を示す識者が「国際法違反」とアメリカの対応を批判しています。しかし、実際に国際法を違反していたのはソレイマニ司令官であり、これを棚に上げた批判は無理筋と言わざるを得ないでしょう。

 

 アメリカは3日までに、トランプ大統領の指示に基づきイラクの首都バグダッドで革命防衛隊のソレイマニ司令官を標的にした攻撃を実施し、殺害しました。

 (中略)

 ソレイマニ司令官の精鋭部隊は「コッズ部隊」の名で呼ばれ、中東でイランの影響力を拡大させる工作活動を指揮するなど外国での特殊任務を担っていて、司令官自身、イラン国内で絶大な影響力を持つと評価されています。

 ハメネイ師からの信頼が厚く、大統領選挙への出馬を取り沙汰されたこともあります。

 

国連から『渡航禁止』が科された “イランの特殊工作部隊の司令官” がなぜ隣国イラクに滞在していたのか

 まず、指摘する必要があるのは「イランの革命防衛隊・ソレイマニ司令官が国連から渡航禁止措置が科されていたこと」です。これはアメリカ国防省も次のように取り上げています。

 However, time is running out on international agreements restraining the Iranian regime. For example, the head of the brutal Islamic Revolutionary Guard Corps-Qods Force (IRGC-QF), Qasem Soleimani, will be allowed to travel on October 18, 2020.

 要するに、ソレイマニ司令官は2020年10月18日までイラン国外への渡航は禁じられているのです。

 しかし、ソレイマニ司令官は “隣国イラク” の首都バグダッドにいました。しかも、ソレイマニ指揮官の任務は「外国(= イラン国外)での特殊工作任務」です。

 渡航が禁じられている特殊工作部隊を率いるトップが隣国にいたのですから、狙われる可能性は十分にあったと言えるでしょう。『革命防衛隊』は「イラン革命の成果を守るための実行部隊」という意味で、様々な行為に手を染めてきたのですから、トランプ大統領の決断も理解できないものではありません。

 ただ、イラン国内では保守強硬派を筆頭にアメリカへの反発が大きくなることが予想されます。そのため、ソレイマニ司令官の殺害が適切だったのかは今後明らかになることでしょう。

 

年末にかけてイラク国内での緊張は高まっていた

 アメリカとイランの関係は昨年の年末から緊張が高まっている状態にありました。

12月27日
(2019年)
イラク北部・キルクークにある『イラク軍基地』にロケット弾が打ち込まれる。駐留中の米国人1人(民間人)が死亡、米軍兵4名が負傷
12月29日 アメリカが「(イランが支援するイスラム教シーア派の武装組織)『カダイフ・ヒズボラ』がイラクとシリアに築いていた武器庫と指揮所を攻撃した」と発表
→ 先日の報復
12月31日 武装組織の支持者や民兵らがイラク・バグダッドのアメリカ大使館に抗議デモを実施。過激化したことでエスパー長官(アメリカ)が750人規模の部隊派遣を表明
1月2日
(2020年)
民兵の指導層がデモ隊に引き上げを呼びかけたことで沈静化。トランプ大統領は「イランが仕組んだ」と非難、ロウハニ大統領は「アメリカの悪事を強く非難する」とコメント
1月3日 アメリカが「トランプ大統領の指示に基づきイラクの首都バグダッドで革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した」と発表

 アメリカ軍が駐留していたイラク軍基地が攻撃されたため、イランの息がかかった武装組織の拠点に報復。その後、イラク・バグダッドのアメリカ大使館が暴徒化したデモ隊に取り囲まれる事態にまで発展しています。

 こうした状況の中でバグダッドにいたイランの革命防衛隊・ソレイマニ司令官が殺害されたのですから、事態は流動化することになるでしょう。

 

『対外テロ工作集団の大物司令官』を称賛すべきでない

 問題なのは「先進国の政府に批判的な識者がソレイマニ司令官を評価していること」です。実態をオブラートに包んでトランプ大統領の決定を批判する立場を採っていますが、ソレイマニ司令官は『対外テロ工作集団の大物リーダー』なのです。

 イスラム革命に身を捧げて最前線の戦場に立って成果をあげているのですから、イラン国内で神格化する言論が起きるのは当然です。

 しかし、それは「イランのイスラム革命を支持する側」から見た評価です。「解放」を求める『改革派』は革命防衛隊に否定的ですし、真逆の評価が聞こえてくることでしょう。

 ただ、表立って意見を表明することは革命防衛隊から “粛清” の対象とされるため、マスコミの取材に応じてもらえる保証はありません。北朝鮮国内でキム・ジョンウン総書記の方針に異を唱えることと同じだからです。

 ソレイマニ司令官が戦場などで行った “工作” の中には「戦争犯罪」として厳しい批判にさらされるべきものもあるのです。そうした部分をひた隠しにし、トランプ大統領(やアメリカ)を批判するためのネタとして利用するマスコミや自称・有識者が戦争を最も煽っていると言わざるを得ないでしょう。

 もっとも、マスコミは戦争が起きてくれた方がニュース記事が売れるため、緊張が高まる事態を本心では歓迎しているはずです。「戦争反対」とキレイゴトを主張し、実際に発生すると克明に報じて収益確保に走る “報道機関” が流す情報には注意が必要と言えるのではないでしょうか。