安倍首相がハメネイ師と会談、マスコミが早くも「仲介失敗」とのレッテル貼りを開始する
安倍首相がイランのハメネイ師との会談を行ったと AFP 通信が報じています。
「アメリカとイランの緊張緩和」を目的に掲げていましたが、マスコミの中には「仲介失敗」との決め付けも出ています。ただ、1度の会談で解決するなら、中東情勢がここまで混沌になることないでしょう。
「失敗」でなければ、「成功」でもない。「両者から信頼されている仲介者としての立場が確認された会談になった」との評が適切だと考えられます。
イランを訪問中の安倍晋三(Shinzao Abe)首相は13日、同国の最高指導者アリ・ハメネイ(Ali Khamenei)師と会談した。米・イランの緊張緩和という日本として異例の外交目的を掲げイランを訪れた安倍氏だが、ハメネイ師は会談後、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領との対話を拒否する姿勢を明確にした。
(中略)
ハメネイ氏は安倍氏との会談の席で、「われわれはあなたの善意と真剣さを疑ってはいないが、米国大統領があなたに伝えたことについて、私はトランプ氏が意見を交換するに値する人物とは考えていない」と述べた。
イランと欧米の関係性は良好ではない
まず、イランと欧米諸国との関係性は良好でありません。アメリカとはトランプ大統領が『核合意』から脱退し、イランへの制裁を強化したことで非常に険悪です。
イランが「トランプ大統領は意見交換をするに値しない人物」と見なすのは当然と言えるでしょう。
一方でヨーロッパ(= EU)も信用を失いつつある状況です。ドイツ・フランス・フランスは『核合意』の枠組みに残り、イランに経済的な見返りを与えるための支援組織を発足させたものの未稼働の状態です。
稼働が遅れている要因は「アメリカの経済制裁に欧州企業が及び腰になっているから」であり、「約束が守られていない」との批判がイラン側から出るのは当たり前です。したがって、安倍首相が “1度の訪問” でイラン側と「何らかの合意」に達することは非現実的と言えるでしょう。
ハメネイ師の安倍首相に向けた言葉は「緩い」と言える内容
イランを訪問した安倍首相と会談したハメネイ師の発言は「緩い」と評すべきものでしょう。保守強硬派が支持基盤であるハメネイ師の発言は「激しい」が基本ですが、安倍首相に向けた言葉は普段とは一線を画しています。
「あなたの善意と真剣さを疑ってはいない」というマイルドな内容であり、「安倍首相とは話をする」というものだからです。これは「日本がイランと何の約束もしていない」からでしょう。
アメリカや EU の場合は「イランとの約束を誠実に履行せよ」と叱責しなければ、イラン国内向けのメンツを保つことはできません。しかし、“イランとの約束を破っていない日本” を批判してしまうと、孤立化を加速する要因になってしまいます。
イランの国益を損ねる言動になってしまうのですから、そうした発言を自重するのは合理的です。また、(日本のメディアはあまり報じていませんが、)手厚い歓迎をすることも理に叶っていると言えるでしょう。
安倍首相が「外交成果」と誇れる結果を現時点で手にできなかったことも事実
安倍首相がイラン訪問で「外交成果」を手にしたかと言いますと、「まだ何も手にしていない」と評価すべきです。ただ、これは「誰が訪問しても同じ結果になっていた」という状況でしたから、「仲介失敗」と騒ぐのは明らかに時期尚早です。
イラン外交で結果を出すには『説得のカード』が必要ですが、イランを説得できる『外交カード』をどの国も持っていません。
厳密に言うと、「アメリカの制裁があるため、『説得のカード』を使いたくても使えない国がほとんど」という現状なのです。したがって、緊張を緩和させるにはアメリカとイランの双方に “顔が効く” ことが前提と言えるでしょう。
トランプ大統領とも良好な関係にあるのは現時点では安倍首相だけです。「仲介者」としての役割に徹し、「どちらかの国の代理人」にならないことが今後の鍵になると考えられます。
偶発的な理由によってアメリカとイランの間で戦闘行為が生じることを回避するのが当面の課題です。安倍首相の存在が “重し” になっていれば、最初の役割は果たしたと言えるのではないでしょうか。