イランのロウハニ大統領が2日間の日程を終えて帰国、「イランの大統領として19年ぶりの来日」という違和感を残す
日本を訪問していたイランのロウハニ大統領が2日間の日程を終えて帰国の途に就いたと NHK が報じています。
他国の首脳が来日することは珍しくありませんが、メディアを通す形で成果をアピールする場面がなかったなど違和感が残されたことも事実です。公式発表されていない部分で「来日する何らかの理由があった」と思われます。
イランの大統領としては、19年ぶりに日本を訪れていたロウハニ大統領は、21日午前、日本の企業関係者などとの会合に出席しました。イラン外務省によりますと、ロウハニ大統領はこの中で、アメリカの経済制裁を非難したほか、日本との伝統的な友好関係を強化したい考えを示したということです。
会合のあと、ロウハニ大統領は羽田空港から帰国の途につきました。
従来の主張をするだけなら、ロウハニ大統領がわざわざ来日する必要はない
イランが「一方的に制裁を強めたアメリカに対して強烈な不満を持っていること」は周知の事実ですし、「日本と伝統的な友好関係があること」も事実です。日本とイランの双方の国民がこれらの事実に理解を示すことでしょう。
つまり、これらの周知事項はロウハニ大統領が来日して改めて言及する必要のないことなのです。
にも関わらず、ロウハニ大統領は2日間の日程で来日しました。「原油取引の再会を熱望する」とトップ自らが促すことの効果はありますが、そうした動きは国連総会の場でも行ってきたことでしょう。
したがって、安倍首相との首脳会談をわざわざ設定してする必要性が少ない状況なのです。「約8000万人の人口を持つイラン市場」は企業にとって魅力的ですが、『宗教上の戒律』が大きなハードルになっている状況ですから、「投資家へのトップセールスを目的にした来日」も考えにくいと言えるでしょう。
「制裁解除交渉の仲介」を安倍首相に依頼する狙いがあるなら、来日の動機になる
ロウハニ大統領がイランの大統領として19年ぶりに来日したのですから、相当の理由が存在するはずです。その理由として可能性が最も大きいのは「安倍首相に『アメリカによる制裁』の解除交渉の仲介を依頼するため」でしょう。
アメリカが科す経済制裁を解除するためには「アメリカ大統領の合意」が必要不可欠です。ただ、トランプ大統領から「制裁解除」を引き出すのは簡単ではありませんし、「交渉の席に着くか」も怪しいところです。
しかも、厄介なことに「両国が(国内世論向けに)強硬派の姿勢を採ってしまっている」という状態です。
“直接的な交渉のチャンネル” が潰えている状況は両国に弊害が及ぶリスクがありますし、トランプ大統領の良好な関係を持っている安倍首相に「仲介」を水面下で秘密裏に依頼する価値は(特にイラン側には)あります。
もし、そうした憶測による来日が疑われたとしても「イランを訪れてくれた大国への返礼として訪問するのは当然」と最もらしい理由を述べられるからです。さらなる追求については「両国の伝統的な友好関係をさらに強めるきっかけにしたい」と論点をずらせるのですから、本丸は別のところにあると疑うだけの価値はあるでしょう。
石油資源の乏しい日本が『イランに対する過度な経済制裁』に賛同する理由はない
イランに対する経済制裁が続く要因の1つは「イランが経済成長することを好ましく思っていない国があるから」でしょう。
例えば、イスラエルです。イランはイスラエルの存在を認めていませんし、「イランが経済成長を遂げると必ず戦争を仕掛けてくる」とイスラエルは考えています。だから、軍事費の絶対値が大きくなる経済成長に寄与する活動を制限するようアメリカ経由で要求し続けているのです。
また、イスラム教スンニ派との関係も緊張状態にあります。こちらは『中東の盟主』の地位が賭かっているため、サウジアラビア(やトルコ)が主として「イランの経済発展」に否定的なのです。
これはイランがトルコと同等と約8000万人の人口を有することに加え、サウジアラビア(人口は約3200万人)に対抗することができる石油資源が埋蔵されていると見込まれているからです。
「トルコ級の人口にサウジ級の石油資源を持つ国」との経済競争で勝つのは簡単ではありません。追い抜かれた時の国家首脳が批判にさらされるのは目に見えているのですから、経済制裁を科されたままのイランを無視することはアラブ諸国にとっては合理的なことなのです。
しかし、日本にとっては迷惑なことです。日本は『石油資源のない国』ですし、売り手となる産油国は選択肢が多い方が良いに決まっています。そうした事情を抱えている訳ですから、『イランに対する過度な経済制裁』には見直しをアメリカに要求すべきと言えるでしょう。
ロウハニ大統領がわざわざ来日した理由が何だったのかが明らかになるのは後になってからでしょう。表に出ることのない交渉で緊張関係が緩和されるのなら、歓迎すべきことと言えるのではないでしょうか。