『事実(や前提)』が変われば、それに基づく『意見』や『結論』は変わる。新型コロナへの対応もその時期に来ている

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための緊急事態宣言が日本全国に出されていますが、5月の連休明けには解除し、自粛要請の対象を緩和する必要があると言えるでしょう。

 なぜなら、緊急事態宣言を出す根拠となった事実および前提が変わったからです。『「東京での感染者1万人」が予想されたために出された緊急事態宣言』を「その半分にも満たなかった現実」で延長することは論外です。

 したがって、『都内での感染者5000人』が予想された際の水準にまで自粛要請を引き下げることが必須と言わざるを得ないでしょう。

 

3月中旬頃までの政府および厚労省・専門家による対応は最大級の賛辞に値する

 まず、新型コロナウイルスの日本国内での感染が最初に確認された2020年2月から3月中旬までの初動は素晴らしいものと言えるでしょう。なぜなら、ウイルスの感染力や重症度が一切不明の状況下で的確な対応をしていたからです。

画像:日本の新型コロナウイルス対策の狙い

 2月末に正式発表された「社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大の抑制効果を最大値とする」という目的は3月末に行われた日本公衆衛生学会でも紹介(PDF)されており、この方針は「現在も維持すべき不変の目標」と言えるでしょう。

 初期段階では新型コロナウイルスが「どの条件の人に猛威を振るうのかが不明」でしたし、警戒する論調を述べるのは理解できることです。

  • 通常のクラスター連鎖は重症例が発生するため発見可能
  • 若者層は生物学的理由で重症化することは例外的
    → だから見つけにくい
  • 症状の重症度と感染力は不明

 このような “戦力値が未知数の相手” との対戦で「完璧な対応しろ」と要求するのは無理難題です。当初は「可能な限りの警戒をすること」が正解ですし、相手の実情が判明しつつある段階で「対応を改めること」が必須となるでしょう。

 

「高齢者の方が周囲に感染させる可能性大」や「社会的理由で見えないクラスター」という “新事実” に対応する必要がある

 その理由は「新しい事実や当初は想定されていなかった問題が浮かび上がったから」です。

画像:新たに分かってきた問題
  • 周知事項
    • 若者が重症化することは生物学的理由から稀
      → 若者層でのクラスターは見つけにくい
  • 新事実
    • キャバクラや風俗が関係するクラスターは社会的理由で見えにくい
      • 客側は来店歴を語らないし、店側に身元を明かしている保証はない
      • 店側は風評を理由に口を閉ざすし、客の身元を知らない場合もある
    • 上気道のウイルス量(= 他人に感染させる可能性)は重症度ではなく、年齢に依存する

 学校への休校要請は「3月上旬時点では合理的」と言えるでしょう。なぜなら、上述の事実は判明していなかったからです。

 しかし、他人に感染する力が「症状の度合い」ではなく「年齢」に依存しているとなると、休校要請はナンセンスとなります。なぜなら、感染拡大に寄与する割合が大きいのは生徒ではなく、(中高年の)教員となるからです。

画像:クラスターの発生理由

 この新情報が言及されたのは4月18日に日本感染症学会が開いたシンポジウムでのことです。

 したがって、指摘された新事実に対する反証が示されないのであれば、外出自粛要請の対象は「強い感染力を持った上、重症化のリスクが大きい高齢者」に変更した上で警戒を継続することが基本としなければならないでしょう。

 

『緊急事態宣言で挽回不可能な条件(= 都内で感染者1万人)』が違ってたのだから、『自粛要請の水準』を維持することは論外

 緊急事態宣言は4月7日に安倍首相が(世論からの強い要求もあって)発表しました。

 東京都では感染者の累計が1,000人を超えました。足元では5日で2倍になるペースで感染者が増加を続けており、このペースで感染拡大が続けば、2週間後には1万人、1か月後には8万人を超えることとなります。

 しかし、専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができます。

 ただ、この専門家会議が行った試算には間違いがあることは事実です。なぜなら、安倍首相が述べたように「緊急事態宣言の効果が発揮するのは2週間後」だからです。

 これは「緊急事態宣言が発表された4月7日の2週間後に当たる “4月21日” に新規感染者数がピークアウトする」という意味です。しかし、実際の数値は異なります。

画像:日本国内での新型コロナウイルスの新規感染者数

 国内での感染者約1万3400人の中、東京都は約4000人です。そのためグラフにすると東京都の数値に引っ張れるのですが、新規感染者数は「緊急事態宣言の “1週間後” から下降傾向」にあります。

 つまり、緊急事態宣言が出される前に新規感染者は減っていたのです。要するに前提条件が間違っていたのです。“間違った前提条件” で出された緊急事態宣言を継続することは大きな問題と言わざるを得ません。

 

現状での緊急事態宣言の継続は「特措法第5条」に違反する

 理由は『新型インフルエンザ等対策特別措置法』の第5条に反するからです。

(基本的人権の尊重)
第五条 国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み、新型インフルエンザ等対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない。

 「制限は必要最小限でなければならない」と明記されているのです。緊急事態宣言の存続が理解・容認されるのは「宣言2週間後の4月21日前後に新規感染者数はピークアウトしたが、減少速度が遅い場合」に限られるでしょう。

 しかし、実際には緊急事態宣言の効果が出るはずのない “1週間後(の14日頃)” から新規感染者が減少に転じているのです。

 もし、安倍政権がゴールデンウィーク明けも緊急事態宣言の維持・継続をするのであれば、これは立憲主義と科学主義の双方に反することです。

 この対応は完全な泣き所になるのですから、野党にとっては「データを示して説明すべき」と攻め立てることが可能な “ボーナスステージ” となるでしょう。

 

安倍政権にも方針転換をする逃げ道はある

 板挟み状態になることが濃厚な安倍政権ですが、方針転換をするための逃げ道はあります。以下の内容を踏まえた記者会見を安倍総理がすれば、世間の反発を最小限にした方針転換は可能でしょう。

  • 国民の皆さまからの要望に応える形で緊急事態宣言を出した
  • だが、その必要がないほど皆さまが自粛要望に協力してくれた
  • 専門家会議の新たな分析で「高齢者ほど重症化しやすく、また感染力が強い」という知見も得られた
  • だから、現行の緊急事態宣言は取り下げる
  • 年金受給世代である高齢者には引き続き自粛をお願いしたい
  • また、日常生活で高齢者と関わりのある現役世代も注意を怠らないで下さい
  • 政治は “社会的理由で見えにくいクラスター” の対策にも力を入れます

 緊急事態宣言を求めたのは国民(や地方自治体)ですし、それも「遅すぎる」との不満が世論調査で出ています。

 これが実際には「不要」だった訳ですから、「国民の皆さまによる自粛の成果」を理由に撤回すれば良いことです。“間違ったデータ” についての言い訳を探すより、「国民の行動変化」で押し切った方が政治対応的に便利であるという打算もあるからです。

 しかし、引き続き自粛をしてもらう必要がある分野もある訳ですから、そこには注意を呼びかける必要はあります。その上で “政治の宿題” を政権側が宣言してしまえば、その審議を国会で拒む野党や国民から恨みを買うことになります。

 新型コロナウイルスで言えば、キャバクラや風俗に代表される夜の街でのクラスターは社会的理由で見えにくいことが新たに発覚したのです。風営法を改正して感染症蔓延時には都道府県知事が店舗のロックダウンを指示できる法的根拠を用意するなど対策を打ち出すことで逃げ道は十分に作り出せることでしょう。

 

 4月になってから収集された情報などからも「新型コロナウイルスへの適切な対応」についての変更は生じているのです。これは反映しなければならないことですし、マスコミもそれを踏まえた報道をすべきでしょう。

 政策や結論は事実や前提の上に成り立つものです。“新たな事実” が見つかれば『前提条件』が変わる可能性がありますし、それらに基づく意見・政策・結論にも変化が生じるべきです。

 変化をしなければ、生き残れる可能性は極端に低くなるのです。ダーウィンの進化論で示された事実を踏まえた上での対応をしなければならない状況にあると言えるのではないでしょうか。