「新型インフルの各種想定事項」を新型コロナウイルスに “転用” した専門家会議が基本再生産数などを大外しするのは止むを得ない
新型コロナウイルスによる被害は日本を含むアジアと欧米では死者に大きな差が生じています。日本では西浦博教授が「R0=2.5 であり、最大で42万人が死ぬ」と主張したものの、大外れの結果となりました。
誰も根拠を示すことができていない状況ですが、おそらくは「『新型インフルエンザの被害想定』を転用した」のでしょう。それなら、今回の新型コロナウイルスに対する想定と極めて合致するからです。
厚労省の『新型インフルエンザ対策に関する小委員会』に興味深いデータがある
一見の価値があるのは2016年(平成28年)9月に行われた『第6回新型インフルエンザ対策に関する小委員会』です。そこで「被害想定」を言及する資料(PDF)が公開されているからです。
“アジアかぜ” が中等度で蔓延すると約17万人が死亡。“スペインかぜ” が重度で蔓延すると約64万人が死亡すると想定がされています。
ちなみに、過去に流行した新型インフルエンザの基本再生産数(R0)などは以下の言及があります。
アジアかぜは R0=1.5、スペインかぜは R0=1.2〜3.0 と推計されています。つまり、新型コロナの専門家会議は『(新型インフルエンザの)前例』で得たデータをそのまま転用した可能性が大です。
ただ、2009年のインフルエンザで大外した総括と改善が不十分だったことがツケとして現れる結果になりました。これは「改善策を講じて実施しなければならないこと」でしょう。
2016年当時に「『年齢群内・群間の2次感染頻度』と『年齢群別の重症度』が流行シナリオの鍵」と主張した “参考人” がいた
ちなみに、2016年の時点でも「年齢群の違いは流行シナリオの鍵となる入力情報」と主張する専門家は存在しています。
- 流行シナリオの鍵となる入力情報:パラメータ(疫学的な指標)
- 年齢群内・群間の2次感染頻度(感染性)
(あるいは、人口レベルでの累積感染リスク) - 年齢群別の重症度(感染時の重症化リスク)
- 年齢群内・群間の2次感染頻度(感染性)
今回の新型コロナウイルス対応でも「年齢群別の感染性・重症度・致命度」が重要だったことは言うまでもありません。しかし、スポットが当たったとは言えません。
何よりも皮肉なのが「年齢群別の分析が流行シナリオの鍵となる」と主張した “参考人” が他ならぬ西浦博教授であることです。本人が主張していたこと(PDF)を自分で否定して、旧来の SIR モデルで「42万人が死ぬ」と脅したのです。
現時点で採られた対応策を次回以降も引き続き活用されると、経済損失が甚大になることは避けようがありません。修正策を出せないのであれば、政治が引導を渡さなければならないことだと言えるでしょう。
「42万人が死ぬ」という予測が大外れした原因は『基本再生産数』ではなく『致命率』
死者数が予想よりも大きく外れた原因は「『感染時の致命率』が低いから」でしょう。『基本再生産数』は「感染者の測定」には役立つ指標ですが、感染者が亡くなるかは『致命率』次第です。
また、感染症の専門家が用いる『基本再生産数』には “考慮されていない点” があることに留意することが必要です。
インフルエンザを例に出してみましょう。インフルエンザの基本再生産数 R0 は 2〜3 と記されています。インフルエンザの獲得抗体は1年も持たないため、これが毎年流行する原因となっています。
しかし、「R0=2〜3」と「獲得抗体なし」の条件があるにも関わらず、インフルエンザは毎年 “勝手に” 終息します。しかも収束条件は「人口の 60% が感染した」ではありません。したがって、R0 は期間限定の指標と見るべきでしょう。
なお、致命率は「無症状者(および病院に行かなかった軽症者)を含める」ことが必要になるため、この数が多いほど『実際の致命率』は押し下げられることになります。
これは “精度の高い” 抗体検査などを用いることで後になってから判明することです。したがって、新型ウイルスの実態が把握し切れていない状況で正確な致死率を出すことは困難であるとの前提が共有されていることが必要になります。
新型コロナに対する日本での『R0』と『致命率』が「予想値の半分未満」なのは確実、前提を修正できるかが鍵
ちなみに、R0 だけの問題ではないことは西浦教授が記した『シナリオ別累計死亡者数』からも見てとることができるでしょう。
再生産数の値を引き下げることは「政府の対策」や「住民の行動変容」によって可能です。ただ、それだど「42万人の死者予想」が「1000人未満」と2桁も外れることは非現実的です。
したがって、基本再生産数が1前後だったに加えて行動変容によって実効再生産数が1を大きく下回り、致命率も無症状患者によって1〜2桁引き下げられたと見るべきでしょう。
前提が大きく変わるのですから、政府が対応を改めることも必須です。また、無症状患者が多くいることは世界各国で共通ですが、日本だけでなくアジア圏での致命率が低い理由を科学的・疫学的な観点から探ることが専門家の責務です。
『自然免疫』や『BCG仮説』など、「否定できないが状況証拠はある」という状況なのです。これらの点は “本職の専門家” が取り組むべき課題ですし、政治が予算を付けて後押しをすべき部分だと言えるでしょう。
また、西浦教授は「年齢群内・群間の感染度」や「年齢群ごとの重症度」という “本来なら使われるべき指標” を過去に提言していたのです。それを使わなかった・使えなかった理由を自身の責任で説明する責任があるのではないでしょうか。