中国が全人代で「香港での反政府活動の取り締まり強化」に必要な法整備を決定、『一国二制度』の崩壊が進行する

 NHK によりますと、5月28日に閉幕した全人代で中国に対する抗議活動が続く香港で反政府的な活動を取り締まるための法律の制定が導入されることが決定したとのことです。

 これにより中国の治安部隊が香港で活動することが可能になるため、『一国二制度』は崩壊へと向かうのは避けられません。中国の影響力が強まることに対する批判の声も出ていますし、米中間の緊張は一層高まることになるはずです。

 日本は地政学的に避けようがない問題であり、政府がどのように振る舞うのかが注目点となるでしょう。

 

 中国の全人代は、28日、習近平国家主席らが出席して議案の採決が行われ、抗議活動が続く香港で反政府的な動きを取り締まる「国家安全法制」を導入することを決めて閉幕しました。

 (中略)

 今後は、全人代の常設機関である全人代常務委員会が、国家の安全に重大な危害を与える行為や、外国勢力の香港への干渉を防止し、処罰することなどを盛り込んだ法律を制定するとともに、必要に応じて、中国の治安部門が香港に出先機関を設けて活動を行うとしています。

 これに対して、香港では、中国の統制が強化され、高度な自治を認めた「一国二制度」が崩壊しかねないとして懸念の声が広がっていて今後、抗議活動が激しくなることも予想されます。

 

中国政府による香港への “直接指導” が現状よりも強くなる

 香港の行政府は今でも中国政府の強い影響力を受けてます。これは「トップである長官選挙に出馬するには『中国政府の認定』が不可欠」であることからも明らかです。

 要するに、香港では “北京” に対して否定的な人物は被選挙権が認められていないのです。だから、『民主化』を求める抗議活動が発生する原因にもなっていました。

 28日に閉幕した全人代で中国政府が決定したことは「香港への(中国を除く)外国勢力からの干渉を防止する」ために必要な法整備を行うというものです。

 つまり、香港が『一国二制度』から『中国の自治区』へと移行することになる法整備を宣言したも同然です。「治安部隊の出先機関を設ける」など、その代表例と言えるでしょう。だから、民主主義国が中国の決定に対して批判する声明を発表する事態となっているのです。

 

香港の『一国二制度』は『英中共同声明』で50年間に渡って保証されている

 香港の『一国二制度』はイギリスから中国に返還された際に「50年間に渡って保証する」と共同声明で語られています。

 しかし、それが反故にされようとしているのです。イギリスから懸念が表明されるのは当然ですし、「国家間の条約(や約束事)を守らないこと」に対して(民主主義国家を中心に)批判の声が起きるのは当然と言えるでしょう。

 香港の住民が「保証期間である2047年を前に『一国二制度』は不要」と主張し続けているなら、前倒しを行う理由になります。これが唯一の例外事例でしょう。

 実際の香港で起きているのは「民主化を求めるデモ活動」であり、「中国との一体化を求める活動」ではありません。しかも、行政府の方向に理解を示す言論や活動は極めて少ない状況なのですから、“香港の吸収” に乗り出した中国政府の姿勢は理解されないと言わざるを得ません。

 

香港が中国と一体化するなら、香港が手にしていた措置は打ち切られる

 これまでは『一国二制度』があったため、香港は「中国とは別の国」という扱いを主に経済面で諸外国から享受していました。

 ところが、中国が本格的に吸収する動きを見せたのですから、対応も「香港=中国」へと変化します。関税などで配慮を示す必要もなくなるでしょうし、中国が香港を経由させる『迂回取引』も規模が縮小することでしょう。

 また、香港出身の学生も「中国本土出身」と同じ扱いになることが予想されます。中国はスパイに留学生の身分を持たせて「知財窃盗」をしているとの指摘があり、その役割を香港出身者が担っていても不思議ではありません。

 中国が力を背景に現状変更を試みた訳ですから、賽は投げられたも同然です。したがって、日本政府も香港情勢について否が応でも対応せざるを得なくなります。

 特に、中国の海警艇による領海侵犯が日常茶飯事となっている沖縄県は強い危機感を持つ必要がある案件なのですが、玉城知事は「中国が沖縄県を侵略している事実はない」と悠長な認識です。

 日本や沖縄は香港情勢の最前線にいるのではないにせよ、前線にいることは確実なのです。必要な準備を怠っていると代償が大きくなる自覚を持った上での行動が必要になると言えるのではないでしょうか。