シリア騒乱で可視化された国連の組織としての限界

 シリア問題の解決策が “国際社会” で模索され続けていますが、有効な手立てが打ち出される気配は一向にありません。

 国連の安保理でも事態改善に向けた決議案が出されはするものの、否決され有効な手立てが打てない状況であるとNHKが伝えています。

 

 国連の安全保障理事会に8日、フランスが主導し40か国以上が共同提案した、アレッポでの空爆を即時停止するよう求める決議案が提出されました。

 フランスのエロー外相は、アサド政権の空爆は戦争犯罪だと厳しく非難し、安保理に直ちに行動するよう訴えましたが、アサド政権を支援するロシアのチュルキン大使は、シリアの国家主権を守るべきだなどと反論しました。採決が行われた結果、決議案は常任理事国のロシアが反対し、否決されました。

 また、ロシアも独自の対策を盛り込んだ別の決議案を提出していましたが、そちらは常任理事国のアメリカ、イギリス、フランスが反対し、否決されました。

 

 安保理では常任理事国である5カ国にだけ拒否権が認められています。

 そのため、常任理事国の利害が一致しないシリア問題ではロシアかアメリカ・イギリス・フランスのどちらかが拒否権を行使し、有効性のある対応策は打ち出せない状況に陥っているのです。

 

 具体的に述べると、常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)の振る舞いを国連主導(=国際社会全体)で制裁することは不可能だということです。

 もちろん、個別に制裁を科すという選択肢は可能です。

 ロシアが軍事力を背景にクリミア半島を併合したケースが具体例と言えるでしょう。国際社会からロシアを批判する声は上がりましたが、国連決議は成立していません。また、ヨーロッパ諸国は貿易・金融面で制裁を科したのですが、全世界に強制されるものではありません。

 「住民投票による結果」というEUが掲げる “民主主義による決定” をロシアに上手く利用されたという面も存在しますが、武力衝突を起こさなくても支配地域の拡大が可能であることが示されているのです。

 

 常任理事国の活動(軍事・経済を問わず)を制限することは安保理にはできないのです。つまり、中国が日本を攻撃するような事態となっても、国際社会は止める術を有していないのです。

 リベラルは「国際社会と歩調を合わせるべき」と主張しますが、国際社会には安保理で拒否権を持つ中国の意見が色濃く反映されるのです。

 リベラル派が言う「国際社会と歩調を合わせるべき」は「中国の主張を受け入れるべき」と同じなのです。中国以外の常任理事国が日本の立場を支持しても、中国を止める術は国際社会にはないのです。

 

 この現実を見据えた上で、日本の安全保障を論じる必要があると言えるでしょう。チベット問題で中国を批判する声は上がっていますが、中国に対する制裁決議は存在しません。

 これが現実なのです。安保理で拒否権を持たない日本がどうやって国や国民を守るのか。キレイゴトではなく、具体的で現実的な対応策を議論する必要があるのではないでしょうか。