サッカー・サウジアラビア代表の戦術を分析

 2018年のロシアW杯出場権を最後まで争うと予想されるサウジアラビア代表のチームや戦術について分析することにしましょう。

 近年の低迷期から脱しつつあるサウジアラビアの状況は日本にとって不気味な存在であり、追い抜かれる可能性も十分にあると考えられます。

 

 現在のサウジアラビア代表監督を務めるのはオランダ人のベルト・ファン・マルワイク。2010年の南アフリカW杯でオランダ代表を率いて準優勝した経歴を持つ人物です。

 サウジアラビアは2011年にフランク・ライカールトが代表監督を務めた頃からユース世代でもオランダ人指揮官が就任し、“オランダ化” が進行する土壌ができつつあります。そのため、戦術面でもロングボールに頼り切ったスタイルから進歩していると考えるべきでしょう。

 

 ファン・マルワイクが監督を務めているのですから、サウジアラビアが目指す理想形は彼が代表チームで最高の結果を残した2010年のチームがモデルになっているはずです。

 当時のオランダ代表選手たちが担った役割ができる選手を現サウジアラビア代表の屋台骨として起用し、細部を微調整することでチームを成熟させるプロセスを採っているものだと思われます。

 

 2010年のW杯決勝でオランダ代表の先発選手は以下のとおりです。この並びがサウジアラビア代表でも基本になっていることでしょう。

画像:2010年W杯南アフリカ大会決勝のオランダ代表

 オランダ代表は 4-3-3 が基本システムとなっているのですが、ファン・マルワイク監督は 4-2-3-1 をベースにしたチーム構成を好む傾向にあります。

 4-3-3 にもスイッチできるのですが、中盤がダブルボランチを置く “正三角形型” になる部分がオランダ代表でよく目にする 4-3-3 と大きな違いです。

 サイドの2選手が高い位置をとることで、ウィングとしての役割が可能となり、3トップになります。また、ボランチの位置まで下がることで 4-4-2 の守備ブロックを作りやすく、攻守の切り替えがスムーズに進みますので戦術理解度が浸透しているほど厄介なチームになると言えるでしょう。

 

 サウジアラビア代表はセンターフォワードは1人で、その選手をトップ下やサイドにいる攻撃的MFの選手がフォローする形です。そのため、CFに求められている仕事(ポストプレーや裏のスペースへの抜け出しなど)を自由にさせないことが日本代表の守備陣には求められます。

 CFの一番手は “鷹” にニックネームを持つ9番のナイフ・ハザジ(Naif Hazazi)選手。空中戦の強さで相手守備陣を押し下げ、波状攻撃の呼び水となる役割が期待されている選手と言えるでしょう。1トップというシステムが採用されているのですから、周囲の選手と連携させないことが求められます。

 二番手は15番のナシル・アルシャムラニ(Nasser Al-Shamrani)選手。小柄ですが、サウジアラビアリーグで得点王5回の実績を持ち、2014年にはアジア年間最優秀選手にも輝いたストライカーです。

 終盤に足が止まったタイミングで途中出場され、かき回されると厄介な選手になると思われます。

 

 “9番の選手” を活かすには司令塔を務める選手が不可欠です。2010年のオランダ代表ではスナイデル選手がその役割を務めたのですが、現在のサウジアラビア代表にも同じ役割を担っている選手がいます。

 タイシール・アル=ジャーシム(Taisir Al-Jassim)選手が実力・実績ともに攻撃の軸になっていると言えるでしょう。シュート力にも定評があるため、ゴールに近づけたくない選手の1人です。また、パス精度も高いため、彼が自由にボールを持つ時間をどれだけ制限できるかが試合内容に大きく影響を及ぼすものと考えられます。

 両ワイドの攻撃的な役割を担うのはムハンマド・アル=サフラウィ(Mohammad Al-Sahlawi)選手とヤヒア・アル=シェフリー(Yahia Al Shehri)選手の2人が軸となっています。

 左サイドを主戦場とするアル=サフラウィ選手はカットインからのエリア侵入を好むタイプで、PKを奪取することに長けていますので、エリア内で誘いに乗るような不用意なプレーを避ける必要があります。PKキッカーを務める選手ですので、調子に乗らせるようなプレーを制限できるかがポイントになるでしょう。

 アル=シェフリー選手は左利きのウィング。UAE戦では3点目となるFKを決めており、左足の精度に自信を持っている選手と言えるでしょう。

 ただ、監督の監督を完全に掴み切れておらず、ファハド・アル=ムワッラド(Fahad Al-Muwallad)選手とのポジション争いを行われている状況です。そのため、攻守両面でのアピールをすると予想されますので、攻めた後に穴ができるということはあまり期待できないと思われます。

 

 ダブルボランチを担当するのはサルマン・アル=ファラジュ(Salman Al-Faraj)選手とアブドゥルマレク・アル=クハイブリ(Abdulmalek Al-Khaibri)選手の “アル・ヒラル” コンビです。クラブチームでも同じくレギュラーを務める2人ですから、連携面での不安はないと言えるでしょう。

 GKとDFは実績豊富なベテラン勢が重宝される起用傾向があります。

 右SBのハサン・マース・ファッラター(Hassan Muath Fallatah)選手と左SBのマンスール・アル=ハルビ(Mansoor Al-Harbi)選手は共に身長が 170cm そこそこで、上背がある選手ではありません。この点を攻撃で上手く突くことができるかが攻撃の鍵となるでしょう。

 CBのオマル・ハウサウィ(Omar Hawsawi)選手とオサマ・ハウサウィ(Osama Hawsawi)選手は高さがあるだけに、どちらかを釣り出すか、グラウンダーのクロスでニア勝負、ファーサイドで上背のないSBとの空中戦など攻撃にバリエーションを持たせ、揺さぶれるかがポイントになると思われます。

 

 ホームで出場権を争う直接のライバルから勝点3を獲得することができるか。ハリルホジッチ監督がどのような準備をして試合を迎えるのかに注目と言えるのではないでしょうか。