フランスが2度目のW杯制覇に成功した最大の要因は「デシャン監督が大会期間中に『プランB』を昇華させたこと」が大きい
2018ロシアW杯は優勝候補の一角に挙げられていたフランスが1998年の自国開催以来、2度目の栄冠を手にしました。
ピッチで結果を残したのは選手たちですが、フランス代表を率いたデシャン監督の手腕を見逃すことはできません。なぜなら、フランス代表のフォーメーションは初戦と決勝戦では全くの別物だからです。
スペクタクルな面ばかりを評価しがちな “ティキタカ至上主義者” は現実に目を向ける必要があります。
フランスは監督のコントロールが効かないと伝統的に “お家騒動” が発生する
まず、フランス代表は「今大会の優勝候補」に挙げられていました。これは今大会に限ったことではないため、特筆すべき点ではありません。
むしろ、“お家騒動” が風物詩となっており、「監督のマネジメント」が重要なチームです。
2010年はチームが空中分解しましたし、その後も「(問題児だが、実力はある)選手の招集」をメディアが騒ぎ続けていました。メディアが報じる世間の声に流されていれば、チームが分裂する恐れがあったと言えるでしょう。
火種を事前に摘み取っていたデシャン監督の手腕は高く評価されるべきことなのです。
『プランA』が頓挫していたフランス代表
デシャン監督はロシアW杯初戦となったオーストラリア戦で 4-3-3 を選択しました。
- GK: ロリス
- DF: パバール、バラン、ウムティティ、エルナンデス
- MF: ポグバ、カンテ、トリッソ
- FW: エンバペ、グリーズマン、デンベレ
大会前に懸念されていたのは「サイドバックを本職とする2選手(シディベとメンディ)が怪我でコンディションが上がり切っていない」という点でした。
そのため、センターバックを本職とするパバール選手とルカ・エルナンデス選手をサイドバックに回すという布陣を選択。前線はスピードのある3選手による3トップで臨みました。
ところが、このシステムが機能せず、オーストラリア戦では大苦戦。デシャン監督は試合中にシステムを変更し、結果を手にし、フランス代表は歩みを進めます。
ジルーを起用する『プランB』が機能したフランス代表
オーストラリア代表の守備網に手を焼き続けたデシャン監督はジルー選手を1トップに入れ、システムも 4-2-3-1 に変更し、辛くも勝点3を獲得しました。
- ジルー選手を “ターゲットマン” として起用
- 中盤の左にマテュイディ選手を配置し、攻守のバランスを保つ
デシャン監督が加えた変更点は上記2点です。システム変更で出場機会を得た2選手とも所属クラブで同じ役割を担っていたことが大きいと言えるでしょう。
ポイントゲッターがグリーズマン選手とエムバペ選手であることに変わりありません。ただ、この2選手がボールに触れる位置が変更されており、その効果は絶大なものでした。
「エムバペとの1対1」は戦術で補えきれない “泣き所”
サッカーはチームスポーツであり、戦術面が重要な要素です。ところが、戦術では補えきれない点がサッカーにはあるのです。
例えば、「エンバペ選手との1対1」です。
爆発的な加速力と圧倒的なトップスピードを持つエンバペ選手と1対1の局面を作られてしまうと、スピード勝負を強いられることになります。足元の技術もあるエンバペ選手を『個の能力』で上回れなければ、守備側は一気に自陣ペナルティーエリアまで侵入を許すことになります。
しかも、エムバペ選手は決定力も兼ね備えている訳ですから、「エンバペ選手が相手と1対1となる局面をどれだけ多く作ることができるか」がフランスの決定機に直結するのです。
もし、エムバペ選手に2人以上のマークがつけば、グリーズマン選手(かジルー選手)のマークが緩むため、代替のパスコースができることになります。その場合は中央を経由して、左サイドの広範囲をカバーするマテュイディ選手にボールを預ける選択肢も生まれるため、チームとしての攻撃が可能になっていたと言えるでしょう。
デシャン監督は不満分子もほとんど出さず、チームの手綱を最後まで的確に捌き続けました。この部分は高く評価されるべきですし、「トーナメント戦では優勝者以外は時間とともに忘れ去られる」という現実に目を向ける必要があります。
特に、優勝候補として大会に臨み、決勝トーナメントで敗れた場合はほとんどの人の記憶から忘れ去られることでしょう。グループで敗退した場合は「失態」として記憶が残るだけです。
ボールを持たされた状態であっても、ポゼッション率は高まります。サッカーはポゼッション率ではなく、得点数を争う競技なのです。大会期間中にシステムを変更し、最高の結果を残したデシャン監督の手腕は高く評価されるべきと言えるのではないでしょうか。