「駆け付け警護」に反対するのではなく、「南スーダン派兵には価値がない」との理由で派遣自体を批判すべきでは?

 日本政府は南スーダンに派遣している自衛隊の部隊に「駆け付け警護」などの新規任務を付与することを決定したとNHKが報じています。

 安全保障関連法に反対する野党は「駆け付け警護」に反対していますが、そもそも問うべきは「南スーダンへの派遣が日本の国防に関係する重要な内容であるか」という点であるはずです。自らのイデオロギーで反対するだけでは単なる自己満足に終わってしまうことでしょう。

 

 政府は、15日、南スーダンに派遣される自衛隊の部隊に、安全保障関連法に基づいて、「駆け付け警護」など新たな任務を付与することを決めました。これを受けて、来月中旬から、首都ジュバとその周辺で部隊が活動を始めますが、政府は、「駆け付け警護」の実施にあたっては現地の状況などを慎重に見極めて判断していく方針です。

 (中略)

 政府は、南スーダンの治安情勢は極めて厳しいものの、部隊が活動する首都ジュバは比較的、落ち着いているとしていますが、野党の一部などには、現地の状況を踏まえれば、自衛隊員の安全を確保できる状況にはないといった批判もあります。

 

 

 独立直後から南スーダン全土の治安情勢は厳しいものとなっています。その大きな要因は南スーダンが産油国であり、“石油利権” が存在するからです。

画像:南スーダンの石油地帯とパイプライン

 産油地帯があるのはスーダンとの国境線付近。主要油田は南スーダン領内に存在し、スーダン国内に敷設されたパイプラインを通じて製油・精製され、ポートスーダンの港から輸出されるという形態がかつては採られていました。

 スーダンから独立した南スーダンは(スーダン国内の)パイプラインを利用した石油輸出がパイプライン利用料の交渉がまとまらず、停止しており、外貨を稼ぐことができていません。

 この部分が解決できなければ、国家が安定する道筋を付けることは難しいと言えるでしょう。

 

 自衛隊が派遣されている南スーダンの首都ジュバは産油地帯から外れた南部に位置しているため、資源確保を目的とした武力侵攻を受けるリスクは低い状況です。

 しかし、南スーダンの政権中枢が存在しているのですから、クーデターの対象となるリスクがあることは明らかです。つまり、反政府勢力に「南スーダン政府の協力者」という定義で攻撃対象とされる恐れがあります。

 そのため、自らの身を守るための “自衛の権限” を付与しておく必要はありますし、「同じ任務を負って南スーダンに派遣されている他国の軍隊と共同して自衛する権限」も付与しておかなければなりません。

 ただし、現状では自衛隊の派遣する体制自体に問題点があるため、南スーダンに派遣する意味はないと言えるでしょう。派遣に反対する野党もこの点を問題として取り上げ、国会で対策を練らなければならないのです。

 

 1番の問題は軍法会議や軍事法廷といった軍隊(≒自衛隊)の行動が適切だったかを判断する専門の司法組織が存在しないことです。

 自衛隊の海外派遣を頻繁に行えば、必ず軍法会議や軍事法廷が必要となる事態に遭遇するでしょう。特に、近年では一般人に紛れた形でのテロ行為や襲撃事件が起きており、交戦時に民間人が巻き込まれることが想定されます。

 その際に、部隊側の対応に問題があったかを判断することを現行の裁判所が管轄するのでしょうか。

 自衛隊の存在に反対する活動家が刑事事件として告訴するでしょうし、“平和憲法” を信望するメディアや知識人も同調することでしょう。「海外派遣を積極的に行うなら、まずは軍事法廷など司法体制の確立が優先事項だ」と政府を批判することが野党には求められていることです。

 なぜ、正面から反対論を述べず、安保法制に反対だから駆け付け警護にも反対というトリッキーな主張を行うのでしょうか。

 

 また、南スーダンに自衛隊に派遣するメリットも非常に少ないことは明白です。そもそも、「南スーダンは日本の国防で関わる最重要国なのか」と国会で問い詰めれば、「撤退すべき」との世論を引き起こせるでしょう。

 ソマリア沖合で出没する海賊対策と比較すれば、南スーダン派遣の重要度は格段に下であるはずです。

 にもかかわらず、武器使用が前提となった任務を自衛隊が請け負う流れとなっているのです。「自衛隊は現地住民やNGOの無料ボディーガードではない」と明確にすることが重要ですし、そのような期待は筋違いであることを明確に主張しなければなりません。

 「軍隊組織が受け持つ治安維持活動」と「警察組織が受け持つ治安維持活動」は別物であり、PKOが両方の活動をする前提で要求を出すことは誤りです。他国の軍隊に警察権限を与えることは大きなリスクを伴うことかは容易に理解できるでしょう。

 

 現実的に言えば、南スーダンへの自衛隊派遣のメリットはありません。本来なら、野党は「南スーダンから撤退すべき」と主張するべきなのですが、民進党が政権時代に派遣を決定した手前、引くに引けなくなっているのでしょう。

 ですから、自衛隊に死傷者が生じる、もしくは発砲するなど “平和を脅かす事態” が起きることを待ち望んでいることでしょう、そうなれば、安倍政権を攻撃することができるからです。

 本当に自衛隊員のことを考えているなら、南スーダンへの派遣そのものを「意味がない」として反対しているはずです。「意味がある」と考えているのは首都ジュバを経由し、ケニアに向けたパイプライン建設プロジェクトを動かしている豊田通商ぐらいでしょう。

 割に合わない派遣で自衛隊員を過酷な環境に送り込む政治家の姿勢ほど猛省すべきことなのではないでしょうか。