諫早湾開門訴訟、自民党政権が開門しない姿勢を明確にしたことで方向性が固まる

 長崎湾・諫早湾の干拓事業を巡り、漁業者が排水門の開門を求めていた訴訟で国が「開門を禁ずる判決」を受け入れ、控訴しないことを明らかにしたと NHK が伝えています。

 “開門したくてもできない状況” に立たされていた国ですが、「開門をせず、漁業者との和解を行う」との方向性を明確に打ち出すことが明らかになりました。開門派にとっては、味方になる政党がゼロになっており、希望は絶たれたと言えるでしょう。

 

 諫早湾の干拓事業をめぐっては長崎地方裁判所が今月17日、「開門すると農地に塩害などが発生する可能性が高い」などとして、干拓地の農業者の訴えに沿って国に開門の禁止を命じる判決を言い渡しました。

 これについて、山本農林水産大臣は25日の閣議のあとの会見で、国として判決を受け入れ控訴しないことを明らかにしました。

 そのうえで、「開門によらない和解を目指すことが問題解決の最良の方策だ」と述べ、今後、開門しないという国の姿勢を明確にしながら漁業者や農業者と和解を目指す考えを示しました。

 

 山本有二農水相が述べたことが自民党の方針と言えるでしょう。「開門せず、漁業者との和解を目指す」というビジョンを持ち、着々と仕事を続けていることが明らかだからです。

 一方の、漁業者を中心にした開門派ですが、味方がほぼ皆無になっています。自民党の姿勢に反対することが目立つ野党が諫早湾干拓事業に関する問題では沈黙を貫いていることがその根拠です。

 

1:民主党・菅直人政権が確定させた排水門開放の判決

 有明海・諫早湾の干拓事業が揉める原因となったのは菅直人首相(当時、民主党)が「開門調査を命じる判決」に対し、控訴を行わず、判決内容を確定させたことです。

 党として、「開門調査は必要」というスタンスを現在を貫いているのであれば、一貫性があると言えるでしょう。しかし、民進党はこの問題について無視を決め込んでいます。

 民進党の公式サイト上で諫早湾干拓に関するニュースは2017年新春都道府県連今年の抱負に掲載された佐賀県連が「県民の皆様と丁寧な対話を行う」という考えを示したことを報告するものだけです。

 “国政マター” だったものを “都道府県マター” に格下げし、党本部は「知らぬ、存ぜぬ」の立場を採っているのです。これは明らかに無責任すぎると言えるでしょう。

 

2:「開門を命じる判決の効力取り消し」を求める裁判の行方

 NHK が報じたニュースで見落とせないのは次の記述でしょう。

 諫早湾干拓事業をめぐっては、長崎地裁が言い渡した開門を禁止する今回の判決のほかにも、6件の裁判や仮処分が続けられ、このうち福岡高裁では、7年前に確定した開門を命じた判決の効力を取り消すよう求めて国が起こした裁判が行われています。

 国が「排水門の開放を命じた判決の効力」を取り消すことを求めた訴訟を起こしているのです。この裁判は開門派にとって、追い打ちをかける事態を招くことになるでしょう。

 なぜなら、開門を命じる判決を確定させた民進党はこの問題から逃げる姿勢を鮮明にしており、開門調査中に塩害や高潮による被害が生じた場合、誰も責任を取らない状況で排水門を開門することは自殺行為になるからです。

 開門派が「干拓地において塩害などで農作物の収穫に影響が出た場合、その後5年間に渡り、所得保障および農地回復のための資金を拠出する」と保証金を用意すれば、開門調査の可能性は残るでしょう。ですが、そのような責任を誰も取らない中では開門調査は「夢のまた夢」なのです。

 

3:和解協議で決裂し、「開門を命じる判決」の効力が消えれば、開門強行派には何も残らない

 国も “泣き寝入り” を要求しておらず、和解を目指す方向性は打ち出しています。生計を立てていた漁業が不振となることは厳しいことですが、基金の創設などの譲歩案が提示されており、開門強硬派がどれだけいるかが注目点となるでしょう。

 和解に難色を示すことは交渉術として間違ったものではありません。しかし、国が「開門を命じる判決」の効力を取り消すための訴訟を起こしているのです。

 訴訟で国の主張が認められれば、「開門を命じる法的根拠」が消滅することになります。そうなれば、開門派の訴えに説得力がなくなり、開門強硬派ほど窮地に立たされることになるでしょう。排水門を開門する責務を国が負う必要がなくなるからです。

 必然的に和解案の条件も悪くなります。「 “開門をする必要のない案件” で開門を求める人々に和解金を支払う意味はない」と世間一般に認知され、開門を訴えてきた漁業者に対する風当たりが強くなることが予想されるからです。

 

 民主党時代の “負の遺産” に正面から取り組むような骨のある民進党議員はまずいないでしょう。党の公式サイトに掲載すらされない案件と見なされているのですから、開門派は孤立無援に近い状態に陥りつつあると見るべきです。

 おそらく、野党応援団であるマスコミも民進党が政権時代に起こした政策ミスは徹底的に隠し通そうとするでしょうから、諫早湾干拓事業の開門問題はなかったことにされるはずです。漁業者が採るべき方向性としては和解協議でできるだけ良い条件を引き出すことに方針転換すべきなのではないでしょうか。