「東北電力の送電線には空き容量がある」と主張する朝日新聞の根拠となった京大の試算は間違いだ
朝日新聞が10月10日付の記事で、「京都大学の試算では送電線に空き容量はある」と主張しています。
しかし、「空き容量ゼロ」と説明する東北電力の主張が正しいでしょう。なぜなら、朝日新聞が根拠とした自然エネルギー財団との関わりが深い2人の京都大学特任教授の計算方法が間違っているからです。
■ 朝日新聞が報じた内容
朝日新聞は石井徹・編集委員と小坪遊記者の連名記事で次のように報じています。
「空き容量ゼロ」として、太陽光や風力などの発電設備が新たにつなげなくなっている東北地方の14基幹送電線が、実際は2~18・2%しか使われていないと、京都大が分析した。東北電力は送電線の増強計画を進め、発電事業者に負担を求めているが、専門家は「今ある設備をもっと有効に使うべきだ」と指摘する。
(中略)
京大再生可能エネルギー経済学講座の安田陽、山家公雄の両特任教授は、電力広域的運営推進機関(広域機関)の公表データ(昨年9月~今年8月)から、東北地方の50万ボルトと27万5千ボルトの基幹送電線について、1年間に送電線に流せる電気の最大量と実際に流れた量を比較した。
■ 事実
1:「送電線に流せる電気の最大量」から利用率は計算できない
安田陽特任教授と山家公雄特任教授は「1年間に送電線に流せる電気の最大量と実際に流れた量を比較して、利用率を求める」という手法を取り、ほとんど利用されていないと結論づけました。
ただ、これが間違いなのです。なぜなら、送電線には制約条件が存在しているからです。
『一般社団法人・電気共同研究会』が公開している資料(PDF)が具体的と言えるでしょう。
- 熱容量
- 系統安定度:送電線の1回線が故障や変電所の片母線が故障した場合でも、発電機の安定運転の維持ができるか
- 電圧安定性:万一の故障を想定した場合でも、電圧の変動を限度範囲内に維持できるか
- 周波数維持:電力系統が分断されても、それぞれの系統が周波数を維持できるか
基本は上記4項目から求められる各限界値のうち、最小の値が運用容量(=現実に送電線で送ることができる電気の最大値)となるのです。
朝日新聞と京大の特任教授は『理論上の最大値』を根拠に「空き容量はある」と主張しているに対し、東北電力は『技術上の最大値』を根拠に「空き容量はゼロ」と主張しているため、意見が対立しているように見えているのです。
2:「電圧安定」と「周波数維持」が再生可能エネルギーの大きな課題
再生可能エネルギーは出力が安定しないことが問題となっています。なぜなら、太陽光発電や風力発電が大量に導入されると「電圧安定」と「周波数維持」が難しくなるからです。
電力は需要と供給のバランスを保ち続ける必要があります。以前は『需要の変動』にのみ対応するだけで良かったのですが、再生可能エネの普及を FIT で行ったことで電力会社は『供給量の変動』にも対応しなければならなくなったのです。
当然、“変動に対応できる限界値” は事前に決まっています。そのため、「接続はできない」と拒否されるケースが出てくることは当然と言えるでしょう。
3:出力変動対策を電力会社に丸投げする再生エネ界隈が送電線を優先利用する資格はない
再生可能エネルギーを普及に熱心な界隈は「発電すれば、儲かる」という立場ですから、「既存施設を有効に使わせろ」と述べるでしょう。
しかし、前述したように “送電網を管理する側” からすれば、迷惑な話です。発電量が一定ではない太陽光や風力は『電力供給量』を変動させる存在であり、その “尻拭い” をさせられているのです。
「海外のように見習え」と述べていますが、諸外国のやり方で電力供給をやると停電が頻発します。それでも良いと考えているのでしょうか。おそらく、そこまでは頭が回っていないのでしょう。また、都合の悪いことは隠す傾向にあるため、そうした問題点は触れることもないと思われます。
電力会社は「新規発電所から送電線への接続」は建設費という形で予算を計上しているはずです。FIT を使う再生可能エネ界隈も同じ条件でやるべきです。出力変動対策を電力会社に丸投げしているのですから、そのぐらいの出費は行わなければなりません。
ベースロード電源になり得ない再生可能エネルギーを FIT に加え、送電線への接続でも優先する必要性はないと言えるのではないでしょうか。