放送倫理を審査する BPO が「業務中の緊急車両を止める行為は問題ではない」と報告書でお墨付きを与える

 東京 MX テレビの『ニュース女子』が沖縄基地問題を扱った番組に対し、BPO は「重大な倫理違反」と結論づけました。

 ただ、この基準が保守系の論調だった『ニュース女子』の番組にのみ適用したことで失笑を呼んでいます。また、公式の報告書で「医療行為を妨害すること」に “お墨付き” を与えた時点で BPO による自主規制は限界を迎えたと言えるでしょう。

 

1:BPO は既存テレビ局の “お仲間組織”

 放送倫理を審査する BPO ですが、既存テレビ局から会費が収入源となっています。実際、以下のように会計状況(PDF)は示されています。

  • 経常収益は、会費収益などで合計4億570万円と、2015(平成27)年度と同額。このうち会費収益は、NHK・民放各社・民放連から従来と同額を見込み、4億500万円とした。
  • 経常費用は、事業費が3億1,037万円(15年度比797万円の減額)、管理費が1億332万円(15年度比239万円の減額)で、経常費用計は4億1,369万円(15年度比1,036万円の減額)とした。

 BPO は約4億円の収入を得ていますが、機能しているとは到底言えないレベルです。特に、大口スポンサーである「(在京キー局と呼ばれる)既存テレビ局」が放送する『問題ある番組』は完全にスルーという状況だからです。

 それに加え、今回の『ニュース女子』が報じた内容に対する報告書で致命的な主張を展開してしまっているのです。

 

 

2:医療行為の妨害を正当化した BPO

 BPO が「無用の長物」と化した決定的な根拠は報告書(PDF)の中で、「基地建設反対派は救急車を止めたのか」というテーマに対し、以下のように結論づけたことでしょう。

 抗議活動側が傷病者であった18件のうち1件について、傷病者を収容した救急車が徐行運転を開始して間もない高江橋で、抗議活動側の人が救急車に対して手を挙げて合図し、救急車に停止してもらい、誰を搬送しているのかを確認したことがあった。救急車が停止した時間は数十秒であった。この事実が「救急車を止めた」と誤解された可能性がある。

 業務中の緊急車両を基地建設反対派が私的検問で止めたのです。

 これを BPO は「誤解された可能性がある」と開き直る主張を展開しました。患者を搬送中の救急車が手を挙げた合図を受けたぐらいでタクシーのように停車するでしょうか。“赤信号ですら止めることができない緊急車両” を停止させる権利が基地建設反対派にはあると述べていることと同じです。

 「数十秒の停止」を強いられたということは「減速+停止(数十秒)+加速」が実際には生じていますので、遅れは数分にまでなっていることでしょう。「1分1秒を争う救急搬送を妨害することに問題ない」と報告書で述べる BPO に “放送倫理” を審査する資格があると言えるのでしょうか。

 

3:BPO とは別の独立した第三者機関が放送倫理を審査する体制を構築すべきだ

 「放送の倫理が問われる事態になった」と新聞社は他人事のように報じていますが、今回 BPO が指摘した点を在京キー局が放送する番組に適用すると、ほとんどがアウトと判断されるでしょう。

  • 事実関係の誤り
  • 裏付け取材の欠如
  • 不適切な映像の使用
  • 侮辱的な表現

 モリカケ報道、座間市で起きた殺人事件の報道など、『放送倫理』が問われる放送は既存テレビ局が数多くやらかしています。しかし、年間4億円の運営予算がある BPO は大スポンサー様に忖度し、厳しい指摘をすることは皆無と言える状況なのです。

 そのため、BPO では力不足と言えるでしょう。したがって、BPO とは別の組織が不可欠です。公正取引委員会を参考にした「総務省の外局に位置づけられた委員会」が『放送倫理』を遵守した番組であるかを審査することが必要と言えるでしょう。

 

 身内に自主規制を期待するのは無理であることは BPO が保守系の番組のみを狙い撃ちしていることからも明らかです。

 また、医療行為の妨害を「問題なし」と結論づけている時点で “放送倫理の問題” を審査する資格はないと言えるでしょう。BPO の体制は残すにしても、放送業界と完全に独立した第三者委員会が BPO とは別に番組内容を審査し、評価を下す必要性が生じたと言えるのではないでしょうか。