映像加工を施していたことが発覚した TBS の『消えた天才』、虚偽ナレーションが野放しの状況下での再発防止は難しい

 TBS の佐々木社長が定例記者会見で自社のバラエティー番組で発覚した「やらせ」を謝罪したと毎日新聞が報じています。

 「再発防止に向けてできる限りのことをしたい」と述べたとのことですが、簡単ではないでしょう。なぜなら、『消えた天才』では「映像の早送り」だけでなく「虚偽ナレーション」も指摘されているからです。

 そのため、“早熟の天才” を際立たせようとする編集方針そのものを変えることができなければ、同様の「やらせ」は今後も発生し続けることになるでしょう。

 

 TBSの佐々木卓社長は25日の定例記者会見で、「消えた天才」(日曜午後8時)と「クレイジージャーニー」(水曜深夜など)のTBS系バラエティー2番組でやらせがあった問題で、「いずれも(バラエティー番組だが)事実を前提にしている番組であり、視聴者との約束を逸脱したアンフェアな手法があった」と謝罪した。

 やらせの背景について、佐々木社長は「制作現場の環境やマインドの問題があったかもしれない」とし、「再発防止に向け、できる限りのことをしたい」と述べた。

 

“早熟の天才” や “第一線を退いた天才” は現役選手と比較すると見劣りするのは止むを得ない

 TBS が放送している『消えた天才』は「 “第一線にいる一流選手” が天才と見なしていた選手の現在」にスポットを当てた番組です。

 ただ、番組がスポットを当てる天才は「今は第一線にはいない」という問題があります。つまり、TBS が「天才」として持ち上げたいアスリートから “凄さ” を感じることは難しくなってしまうのです。

 早熟の天才は「子供の頃にトップレベルにいたケース」が多く、フル年代のトップレベルにまで達していたケースは稀です。また、第一線を退いた天才が現在もトップレベルに留まっていることも稀です。

 したがって、彼らのパフォーマンスが一線級であることを示すために映像を “加工” する誘惑に駆られやすい環境にあるのです。これを食い止める仕組みを作らなければ、同様の不正に手を染める社員は出てくることになるでしょう。

 

脚色が当たり前の『バラエティー番組』で “ありのままのパフォーマンス” を放送することはジレンマが生じる

 バラエティー番組では「内容を強調すること」が日常茶飯事です。制作陣に要求されることですし、そうすることが視聴率を取るためにも重要とテレビ局が認識しているからです。

 この現状は事実を無視した脚色が横行する温床にもなることです。

 『消えた天才』で「やらせ」が発覚したのは「映像の早回し」という “言い逃れができない不正” を放送してしまったからです。過去には不適切なナレーションをしており、この問題にもメスを入れなければ抜本的な解決にはならないと言わざるを得ないでしょう。

 例えば、大谷翔平選手を取り上げた際にナレーションで「ドラフト会議で指名されずに挫折した」と取り上げられた田端選手(当時・大阪桐蔭高)はプロ志望届を提出していません。したがって、プロ球団はドラフト会議で田端選手を指名するのは不可能なことです。

 他にも伊藤智仁投手(元ヤクルト)や斎藤佑樹投手を取り扱った放送回でも疑義が指摘されています。こうした問題への調査は行われていないのですから、番組を再開させたところで同じような編集が行われた結果、再び問題が起きたとしても不思議ではないと言えるでしょう。

 

一線を越えたことによる弊害が軽微な現状では対策が効果を発揮することはない

 テレビ局が制作する番組で「やらせ」が後を絶たない原因は「やらせによる弊害が極めて軽微だから」です。1度のやらせで経営が大きく落ち込むなら、テレビ局の経営陣は “最優先課題” として対処に当たることでしょう。

 しかし、現状は「何の影響もない」と言える状況です。

 BPO は “お仲間” ですから、番組出演という形で「返礼」をするテレビ局を最大限擁護します。メディア・スクラムによる影響を出しても、事実と異なる報道をしても、被害回復のための賠償金を自主的に支払うこともないのです。

 これでは放送するテレビ局や番組制作陣が自発的に歯止めをかけることもなく、暴走するのは当然です。問題が発覚して一時的に反省を表明したところで、1年も経たない内に元の編集・放送方針に戻ることになるでしょう。

 他社のような『業務停止命令』が当局から下されることが当たり前となるように報道業界そのものが変革する必要があると言えるのではないでしょうか。