日経新聞、「インフラ民営化は世界的な流れ」と時代遅れの主張を展開する
日経新聞の公式ツイッターが「老朽化で維持コストが今後膨らむインフラは民間に任せるのが世界の流れ」と主張しています。この考えが20年ほど時代遅れになっていることに気づいていないことが致命的と言えるでしょう。
■ 日経新聞の記事
元ネタとなったのは日経新聞が1月4日付で報じた記事です。「公共インフラの民間売却を容易にする」ことで、自治体の負担軽減が可能となる法改正が進んでいるとの内容でした。
この記事に対し、日経新聞の公式ツイッターが以下のツイートをしたのです。
公共施設・インフラの運営を民間に任せるのは世界の流れです。日本は空港で例が出始めましたが、老朽化で維持コストが今後膨らむ上下水道などはまだまだ。政府は自治体の手続きを簡単にするなどして民間委託を進める法改正に着手します。
日経新聞の認識が致命的なのは、世界の水道事業は『再公営化』の流れが潮流となっていることを無視していることです。
空港は民間運営でプラス効果が出ていますが、水道はマイナス効果が大きくなりました。この10年で『再公営化』が飛躍的に増えたという現実を無視した主張は完全な “周回遅れ” と言えるでしょう。
■ 事実
1:フランス・パリは2009年の時点で『再公営化』に舵を切っている
フランスにはベオリアとスエズという “水メジャー” が存在します。両社がパリ市から委託を受ける形で水道事業を行っていたのですが、これが『再公営化』となり、2009年末で契約が終了したと朝日新聞 GLOBE が報じています。
また、2000年時点で3件だった『水道事業の再公営化』が2014年の時点で180件にまで増加したとの報告書(PDF)も存在しているのです。
つまり、「上下水道の民営化は失敗だった」というのが世界で導入した自治体の結論なのです。その失敗を繰り返すことが可能になる法整備が行われたとしても、権利を行使しないことが重要と言えるでしょう。
2:なぜ、“水道事業の民営化” は失敗するのか
民営化に舵を切る理由は「行政が提供するよりも、安価で質の高いサービスを民間企業が提供できる」と判断するからでしょう。しかし、水道事業にはその思惑が外れやすい要因が複数存在することが問題です。
- 独占事業である
- 水は生活に欠かせないインフラである
- 民営化された時点で水道網は老朽化している
- 採算が合わない地域が存在する
『運営』だけであれば、民間企業の方が「行政が提供するよりも、安価で質の高いサービス」を提供できるでしょう。そうしたノウハウを持っていると考えられるからです。
しかし、現実にはサービスを提供していく中で『維持・管理』が不可欠となります。これが「料金の値上げ」を引き起こす最大の理由となるのです。
3:現状の料金体系では “お荷物” となっている水道事業
水道事業の民営化を実施した都市で起きたことを整理すると以下のようになります。
- 水道事業が行政の財政を圧迫し、品質向上を求めて民営化
- 民営化によるデメリットが住民に直撃
- 水道料金の値上げ
- 老朽化した水道管の更新費用を料金に上乗せ
- 不採算地域へのサービス提供を拒否
- 行政の時の方がマシと、『再公営化』が進む
日常生活に欠かせない水道事業を独占で民間企業が手に入れたのです。ビジネスとして採算割れをするような経営は絶対にしないでしょう。また、行政の時代には存在したであろう補助金や料金免除という類の利用者にとっての恩恵も消滅するはずです。
「シビアにビジネスとして経営されるより、税金という形で広く薄く負担を配分し、場合によっては税金投入となって良い」との結論が世界中で出されているのです。
“老朽化で維持コストが今後膨らむ” と日経新聞が書いているのですから、水道事業の運営コストは運営者が誰であっても増加することは明確です。最も、限界集落を壊滅させるには “極めて理想的な政策” だと言えるでしょう。
日経新聞が「地獄へと続く道を舗装している」と言える内容の記事を書いていることには注意が必要です。